【転載】国立天文台・天文ニュース(327)

探査機ニア、エロスを周回する軌道に入る


 アメリカ航空宇宙局(NASA)が1996年2月に打ち上げた小惑星探査機ニア(NEAR;Near Earth Asteroid Rendezvous)は、小惑星(433)エロスに接近、2月14日15時33分(世界時)にエロスから327キロメートル離れた地点でエンジンを噴射して速度を落とし、エロスを回る人工衛星になりました。探査機が小惑星を周回する衛星になったのは初めてのことです。ニアは今後エロスを回りながら、長期にわたってその精密観測をする予定です。これまで、小惑星近くを通過しながら観測をおこなった例はありますが、これではあまり詳しい観測はできません。それに比べて、周回軌道からの観測は、はるかに分解能の高い精密な観測ができることと期待されています。

 エロスは長軸33キロメートル、短軸13キロメートル程度の細長い形をしています。ニアから送られてきたエロスの画像は、その表面のたくさんのクレーター、その縁を切り裂いている溝、クレーター内部の地層、複雑なさまざまな模様、散乱している岩石、色のついた鉱物などを写し出しています。直径6キロメートルのクレーターもあります。詳細な解析には時間がかかりますが、ちょつと見ただけでもいくつもの興味ある事実に気付きます。エロスの表面重力は地球の数千分の一と推定されますが、その小さい重力によって、クレーターの内壁を転がり落ちたように見える丸石なども見えます。何だかはっきりしませんが、1キロメートル弱の大きさの輝く斑点状のものも見えています。ニアは、今後、洪水のようにたくさんの興味ある画像やデータを送ってくるに違いありません。

 実は、ニアは、約1年前にエロスを周回する軌道に入る予定でした。しかし、そのときはエンジンの点火に失敗し、エロスを通過してしまったのです。遅ればせながら今回無事にエロスの衛星になって、関係者はほっと胸をなでおろしていることでしょう。

 ニアと直接の関係はありませんが、土星を目指して飛行をつづけている探査機カッシーニは、昨年11半ばから火星と木星の間にある小惑星帯に突入、1月23日には小惑星(2685)マサスキーに160万キロメートルまで接近し、2枚の画像を撮影して地球に送ってきました。ニアに比較するとずっと遠い距離からの撮影で、細かい議論をするには不十分なものですが、それでも、わかっていなかったその大きさが、ざっと15から20キロメートルであることがはっきりしました。さらに反射能や種別なども推定できるでしょう。接近観測を主体として小惑星を研究する時代になってきたことを思わせます。

参照

2000年2月18日 国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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