【転載】国立天文台・天文ニュース(325)
国立天文台・堂平観測所が今年度いっぱいで閉鎖されます。
堂平観測所は、埼玉県小川町、都幾川村、東秩父村の境界にある標高876メートルの堂平山の山頂に、当時の東京天文台の観測所として1962年に建設されたものです。主観測装置として、当時としては国産で最大の口径をもつ91センチ反射望遠鏡が設置されました。東京に比較的近く、アクセスが容易なこともあって、夜光観測室、極望遠鏡、ベーカー・ナン・シュミットカメラ、自動流星儀、50センチ彗星写真儀、月・人工衛星レーザー観測装置などがつぎつぎに設置され、多くの研究者が観測に訪れました。188センチ反射望遠鏡をもつ岡山天体物理観測所と並んで、堂平観測所は、日本の天体観測の中心のひつとでした。人工衛星の観測もここで永いこと続けられましたし、回帰した彗星もいくつか初検出されました。一昨年、昨年と大きく話題になった「しし座流星群」の前回の回帰は、34年前にこの堂平で観測されています。天王星のリングを最初に発見した1977年の観測にも、この堂平観測所が参加していたのです。
開設当時、堂平の空は暗く、微光天体の観測も可能でした。しかしその後、夜空は急激に明るくなりました。高度成長に伴って都市の空は明るく照らされ、東京に近い堂平観測所の観測環境は急速に悪化したのです。一方、世界各地に大口径の反射望遠鏡がつぎつぎに建設されるにつれ、たった91センチの鏡による観測の意義はしだいに低下しました。それに加えて、1999年には、堂平のなんと9倍の口径をもつ「すばる望遠鏡」がハワイで観測を開始したことから、堂平観測所の存在意義は非常に小さくなったと判断されました。その結果閉所が決定されたのです。グリニジ天文台ですら閉所されたのですから、時代の流れで致し方ありません。それでも、観測のため幾夜も堂平観測所で過ごした者にとって、この決定には感慨深いものがあります。
設置されていた観測装置の多くは、すでに他に移設されています。日本で最初に作られた大口径シュミット・カメラである50センチ彗星写真儀は、国立科学博物館が引き取ることに決まっています。ただ、91センチ反射望遠鏡は、いまのところ、はっきりした引き取り先がないそうです。どうなるのでしょうか。
今後、堂平観測所の建物は撤去され、借りていた敷地は、それぞれの町村へ返却される予定と聞いています。
2000年2月10日 国立天文台・広報普及室
お知らせ:都合により、次回の天文ニュースは、2月18日(金)に発行の予定です。