【転載】国立天文台・天文ニュース(310)

小惑星クレオパトラは連星


 ヨーロッパ南天天文台の観測によって、小惑星(216)クレオパトラ(Kleopatra)が連星であることが明らかになりました。以前、木星探査機ガリレオが小惑星(243)イーダに衛星を発見し、また咋1998年11月には、ハワイの地上観測により小惑星(45)ユージェニアにも衛星のあることがわかって(天文ニュース247)、小惑星にも衛星が確認される時代になってきました。これらが大きさの違う主星-衛星タイプであるのに対し、今回確認されたクレオパトラは、ほぼおなじ大きさの2天体による連星です。

 クレオパトラは周期5.385日で変光することがわかっています。しかし、その変光の幅は1等以上もあるので、小惑星の形でこれを説明するには、軸の長さの比がが3.4対1.3対1というかなり細長い楕円体を考えなければなりませんでした。こんなに細長い形が安定して存在するためには、密度の小さいことが必要条件になります。一方、分光観測によると、クレオパトラはM型の小惑星で、金属に富むことが推測され、この低密度の条件とは大きく矛盾するのです。

 この矛盾を説明するために、「クレオパトラは接近して回りあっている連星である」という考え方がトリノ天文台のセリノ(Cellino,A.)など、何人かの人から提案されていました。今回観測が実施されたのには、この仮説を実証しようという背景があったのです。

 観測は10月25日、チリ、ラシラの、ヨーロッパ南天天文台にある3.6メートル望遠鏡で、波長2.15マイクロメーターのKバンドを使って、マーキス(Marchis,F)らが1時間近くかけておこないました。このとき、クレオパトラは地球から1.2天文単位離れて「おうし座」を逆行中で、明るさは10等でした。その観測から、クレオパトラを、見かけの大きさはほぼおなじ、明るさの比は10対8という2星に、見事に分離した像が得られたのです。これで、仮説は実証されました。2星は角度で0.125秒離れているだけで、3.6メートル望遠鏡で分離できるぎりぎり限界の距離でした。

 クレオパトラは1880年4月10日にオーストリアのパリサ(Palisa,J.)が発見した、4.7年周期で太陽を回っている、メインベルトの小惑星です。エジプトの女王としてあまりにも有名なクレオパトラその人については、説明するまでもないでしょう。

参照

1999年12月2日 国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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