【転載】国立天文台・天文ニュース(264)
赤色巨星の一種から放射される謎の赤外光について、天文学者間の議論が熱を帯びています。この赤外光は、波長21マイクロメータを中心とする幅の広い輝帯です。その幅の広さから、これは原子や簡単な分子から生ずる光ではなく、ずっと大きい分子、あるいは固体から放射されると推定されます。
この放射は、はじめ赤外天文衛星アイラス(IRAS)によって4星で観測され、1988年にその特徴が発表されました。しかし、アイラスの分光器の分解能が低かったので、詳細は不明のままでした。ただ、赤色巨星から惑星状星雲に移り変わるごく短期間だけ、この放射が観測されることが推測されています。1995年に、より分解能の高い分光器を搭載した赤外線宇宙天文台アイソー(ISO;Infrared Space Observatory)が打ち上げられ、その観測によって、21マイクロメータの放射が観測された星は12星に増え、状況がよりはっきりしてきました。ところで、この放射はどのような物質によるものでしょうか。
イギリス、エジンバラ大学のウエブスター(Webster,Adrian)は、水素と化合したフラーレンである可能性を述べています。フラーレンとは炭素原子60個が球状に結合した分子が基本の形です。計算によると、そこにさまざまな数の水素が結合した分子が21マイクロメータを中心とする放射をするそうです。
一方、ゴダード・スペースフライトセンターのナス(Nuth,Jo)は、微小なダイヤモンドによる説を唱えています。実験室では、炭素の蒸気から1-3ナノメータの大きさの微小ダイヤが直接に結晶し、やはり21マイクロメータの赤外放射をするというのです。
ドイツ、イエナ大学のヘニング(Henning,Thomas)は、また別に、二硫化ケイソを提案しています。これもまた21マイクロメータの放射をするのです。これらのいずれにしても、相当な量がない限り、観測されるほどのスペクトル強度になりません。
アイソーは昨年3月に寿命が尽きて、つぎの赤外観測衛星打ち上げのはっきりした予定はありません。そのため、目下、実験室での研究が続けられています。末期の赤色巨星に微小ダイヤがたくさんあるかもしれないというのは、なんとなく楽しい話に思われます。
参照
訂正:天文ニュース(261)で、「ほ座新星1999」の位置を、「南十字星の少し東側」とお伝えしましたが、「少し西側」の誤りでした。謹んで訂正いたします。
1999年6月3日 国立天文台・広報普及室