【転載】国立天文台・天文ニュース(249)

ガンマ線バーストGRB990123(続報)


1月23日に、これまで観測された中でもっとも明るいガンマ線バーストGRB990123がとらえられました。これは天文ニュース(236)でお知らせしたものです。ずば抜けて明るいものであったこと、発生直後から観測できたこと、ガンマ線から可視、赤外、電波にわたる広い波長範囲で観測がおこなわれ、その減衰状況がわかったことなどにより、バーストのメカニズム、残光(afterglow)発生などを研究する豊富なデータが得られました。このバーストGRB990123の観測結果の報告が、Science誌の3月26日号と、Nature誌の4月1日号にそれぞれ3編づつ掲載されています。詳しくはそれらをお読みいただくことにして、ここでは、かいつまんで、いくつかの情報をお届けします。

 ガンマ線バースト発生のメカニズムについては、たとえば、2個の中性子星の衝突合体による、あるいは巨大質量星の崩壊、爆発によるなどの説があります。このどちらのメカニズムもブラックホールを生み出し、また光速に近い速さで物質を周囲に放出します。放出された物質は周辺の物質と衝突して衝撃波をつくります。周辺物質は衝突により加熱され、火球状になって膨張し、それらが冷却するまでの期間、ガンマ線、光、電波などを放出します。これが長時間の残光を作り出す原因で、俗に火球モデルといわれる考え方です。

 今回のガンマ線バーストGRB990123は、その赤方偏移が z=1.6 であることが求められました。それに対応する距離は数10億光年になります。そこから推定すると、仮に等方的にエネルギーが放出されたとするなら、可視光で10の49乗エルグ以上、ガンマ線で10の54乗エルグ以上というぼう大な量のエネルギーが放出されたことになります。わかりやすい例でいいますと、これは太陽2個分の質量が全部エネルギーに変わったことに匹敵する量です。そして、通常の巨大星崩壊モデルから推定される放出エネルギー量を大きく越えます。中性子星衝突モデルでもこれだけのエネルギーを生み出すことはできません。

 それでは、どうしてこれだけのエネルギーが観測されたのか。それを説明できる二つの考え方があります。ひとつは重力レンズ現象によって、われわれの方向にエネルギーが集中したとすもの、もうひとつは、エネルギー放出が初めから等方的でなく、たとえばビーム状になって放出され、それがたまたまわれわれの方向に向いていたと考えるものです。しかし、報告の中で、クルカーニ(Kulkani,S.R.)らは、重力レンズ現象が起こっている直接的証拠はないとし、ビーム状放出の可能性を示唆しています。

 それとは別に、ガラマ(Galama,T.J.)らは、ガンマ線から電波にわたるさまざまな波長で残光を観測し、GRB990123の残光のピーク時の周波数が他のバーストに比べて低いことに気付きました。これは、残光を発生する領域の磁場強度の変化の差によるものと推測しています。

 いずれにしても、ガンマ線バーストの研究は、メカニズム追及という初期段階を終わり、観測結果と理論的モデルをどのように整合させるかを議論する時期に移ったように思われます。

参照

1999年4月8日          国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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