【転載】国立天文台・天文ニュース(190)

超新星がガンマ線バーストに一致


長い間の謎とされていたガンマ線バーストは、非常に遠方で起こった、ぼう大なエネルギー流出をともなう爆発現象でした。これは最近になってやっとわかったことです(天文ニュース175)。こうした発見をもとに、多数の理論天文学者が、ガンマ線バーストのメカニズム追及を精力的におこなっています。その最中、また新しい事実が明らかになりました。

 去る4月25日、ガンマ線観測衛星ベッポ・サックス(Beppo-SAX)は、「ぼうえんきょう座」にガンマ線バーストを検出しました。これが GRB980425 と呼ばれるようになったバーストです。アムステル大学のガレマ(Galama,T.J.)らは、このバーストの光学的アフタグローを捕らえようと、チリ、ラシーヤにあるヨーロッパ南天天文台の、口径3.6メートル新技術望遠鏡を4月28日にこの点に向けたところ、そこにあった ES0 184-G82と名付けられている棒渦状銀河の腕に、15等級の超新星が出現しているのを発見したのです(この超新星は SN 1998bw の記号がつけられました)。

 ガンマ線バーストの位置が超新星と一致したのは初めてのことです。そして、ガンマ線バーストと無関係に超新星が偶然に同じ場所に出現したということは、確率から考えてほとんどあり得ません。おそらく、ひとつの爆発現象が、ガンマ線領域の観測ではガンマ線バーストとして、また可視光の領域では超新星として捕らえられたものと思われます。では、ガンマ線バーストと超新星とは同じ現象なのでしょうか。この点を明らかにするため、各国の天文学者は総力を挙げてこの天体の追跡観測をおこないました。

 その結果、かなり詳細な状況が明らかになってきました。まず、超新星 SN 1998bw は約1億4000万光年という中程度の距離にあり、ガンマ線による放出エネルギーもそれほど大きいものではなかったことがわかりました。たとえば、昨年12月14日に「おおぐま座」で検出された大規模なガンマ線バースト GRB971214 に比べると、そのエネルギーは僅かに10万分の1程度にしかなりません。一方、電波による明るさが一般の超新星に比べて非常に明るいこと、可視域のスペクトルではイオン化した水素やヘリウムの線がないことなど、一般の超新星とは異なる特徴も見られました。これらの点からみますと、今回ガンマ線バーストと一致して観測されたこの超新星は、通常とはかなり異なる特殊の超新星らしく思われ、また、ガンマ線バーストも一般的なものではないと考えられます。したがって、今回観測された天体はひとつの特殊例である可能性が大きく、ガンマ線バーストがいつも超新星に結び付くのではないと考えた方がよさそうです。

 こうして、ガンマ線バーストと超新星が一致する最初の例が発見されはしました。しかし、いまの状況からすると、今回の発見から、ガンマ線バーストのメカニズムの謎が解決できたと考えることはできません。

参照

1998年7月9日          国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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