【転載】国立天文台・天文ニュース(175)
天文ニュースの(93)から(105)にかけて、何回かガンマ線バーストについてお知らせしたことがあります。宇宙の一点から、突然強力なガンマ線の放射があり、すぐに消えてしまうこの現象は、1969年に発見されて以来、原因天体もその発生メカニズムもわからないままに30年近くが経過しました。しかし1996年に打ち上げられたガンマ線観測衛星ベッポ・サックス(Beppo-SAX)が、いくつかのガンマ線バーストの精密位置を手早くつぎつぎに決定したことから、そのバーストのアフタグロー(余燼)を、X線、可視光、赤外線、電波などで観測できるようになり、研究は急激に大きく前進しました。たとえば、ガンマ線バーストは系外銀河で起こっている、それもダストやガスの多い星形成領域で起こっているらしいこと、変化の速さから見て、比較的小さい領域で起こる現象であること、光速に近い速度で物質の放出があることなどがつぎつぎにわかってきたので す。中でも重要なこととして、これらガンマ線バーストを起こした天体までの距離がわかったことが挙げられます。その結果、これまでに距離が決定できたガンマ線バーストは、すべて非常に遠い銀河で起こっていることが確実になりました。
たとえば、1997年2月28日に起こったガンマ線バーストは、赤方偏移が z=0.835 もありました。光を出す天体が遠ざかりつつあるときは、ドップラー現象で、天体が静止している場合より光の波長が伸びて観測されます。静止の場合に比べて波長が(1+z)倍になるとき、その赤方偏移を z というのです。ハッブル定数の取りかたなどによって、それを換算した距離は異なりますが、z=0.835 はほぼ75億光年ぐらいに相当します。ガンマ線バーストはそれほど遠いところの現象なのです。
このような研究がなされているときに、さらにびっくりすることが起こりました。昨年12月14日に検出されたガンマ線バースト GRB971214 は、そのアフタグローが22等から26等の明るさで観測され、ハワイの口径10メートルのケックII望遠鏡で得られたそのスペクトルから、なんと z=3.42 という大きな赤方偏移が求められたのです。これはざっと120億光年ぐらいの距離に相当します。宇宙年齢を150億年としますと、このバーストは、宇宙が誕生してからわずか30億年しか経たないときに起きた現象ということになります。それだけでなく、この遠い距離にあってなおかつ観測できることは、そのバーストから放出されるエネルギーが途方もなく大きいことをも意味します。仮にバーストが等方的にエネルギーを放出しているとすれば(等方的という証拠はなにもありませんが)、GRB971214 の放出エネルギーは、ガンマ線だけで、なんと10の53乗エルグの3倍にも達すると見積もられました。このエネルギーは、太陽がその生涯に放出する全エネルギーの50倍にもなるのです。
このように巨大なエネルギーは、いったいどのようなメカニズムで発生するのでしょうか。それについてはさまざまな議論があり、結論はまだでていません。これまでに、たとえば、連星の中性子星が衝突、合体して、それらを結合していた重力エネルギーが放出されるといったモデルなどが提案されています。これで上記のエネルギーがまかなえるのか、理論面からの追及も精力的です。ここまでくれば、ガンマ線バーストの謎がすべて解かれる日も、そう遠いことではないかもしれません。
参照1998年5月21日 国立天文台・広報普及室