【転載】国立天文台・天文ニュース(188)
ヨーロッパ宇宙機構(European Space Agency;ESA)が6月26日に発表したところによりますと、観測を続けていた太陽観測宇宙天文台ソーホー(SOHO)とは、6月24日から、通信連絡がとれなくなったということです。通信回復は絶望的と見られています。
ソーホーについては天文ニュース(174)でも少しお知らせしましたが、1995年12月2日に打ち上げられた、太陽観測を目的とする宇宙探査機で、重量約2トン、12種の観測機器を搭載しています。
観測装置のうちの3種は太陽の内部を探り、6種は太陽大気の観測をおこない、残りの3種は太陽から吹き出している太陽風を観測するものです。ソーホーは、これらの全部の観測機器を使って、これまでにない高い精度で、太陽活動の状況を探ろうという野心的な計画でした。そして、いつも地球と太陽を結ぶ直線上で地球から150万キロメートルのところに位置し、地球とともに太陽を回りながら太陽の観測をおこなっていたのです。
その観測装置のひとつ、広角分光コロナグラフ(The Large Angle Spectroscopic Coronagraph;LASCO)は、太陽に近づく彗星を非常に効率的に発見する装置であることがわかりました。彗星を発見することはこの装置の当初の目的ではありませんでしたが、現実には、2年ほどの間に50個以上の彗星を発見しました。これらの彗星はすべてソーホー彗星と呼ばれています。そのほとんどは太陽の表面すれすれに通過するクロイツ群と呼ばれる彗星です。クロイツ群の彗星がこのようにたくさん存在することは、ソーホーの観測によって初めてわかったことです。6月2日にソーホーは、この種の彗星2個が相ついで太陽に衝突した様子も捕らえています。
ソーホー彗星にはクロイツ群以外のものも数個あり、そのひとつで今年5月に発見された C/1998 J1 は非常に明るく、南半球で肉眼彗星として見ることができました。現在でも、まだ小望遠鏡で十分に見ることができる明るさです。
太陽はほぼ11年周期でその活動が衰えたり、盛んになったりします。このつぎの活動の極大は2000年頃と考えられています。そしてソーホーは10年以上観測を続けるように設計され、この極大期を含んで、変化の1周期を通して観測を継続することが期待されていました。ここで通信不能となったのはほんとうに残念なことです。
参照1998年7月2日 国立天文台・広報普及室