【転載】国立天文台・天文ニュース(174)

地上から見えるか、ソーホー彗星


 「ソーホー彗星が明るく見える」というニュースが新聞などで報じられています。これについて述べておきましょう。

 いま話題になっているソーホー彗星は C/1998 J1 の認識符号がつけられている彗星のことで、太陽観測宇宙天文台ソーホー(Solar and Heliospheric Observatory;SOHO)が搭載しているコロナグラフの撮像から、5月3日(世界時)に発見された彗星です。太陽から8度離れたところで0等の明るさがあり、扇状の尾も観測されています。5月8日に約0.16天文単位の距離で近日点を通過し、大略の見積もりでそのときマイナス1.4等ぐらいの明るさがありました。その後太陽から離れるにつれてしだいに暗くはなりましたが、それでもかなり明るい彗星で、地球上からも観測できると思われ、上記のニュースになったのです。しかし、残念なことに、日本からは非常に観測条件が悪く、5月中旬に、日没後30分の西空で、せいぜい5度程度の高さに見えるに過ぎません。その後はすぐに沈んでしまいます。日が経つにつれて、同じ日没後30分でも高さはどんどん低くなりますから、日本での観測は非常に困難です。広報普及室でも5月13日に観測を試みましたが、成功しませんでした。一方、ハワイでは、5月11日に0.5等に明るさで観測できたということです。しかし、南半球でなら、今後かなりよい条件で観測できると思われます。この彗星のMPECによる暫定放物線軌道による軌道要素と予報位置をつぎに示しました。ただし、この表に記載されている明るさは、それほど正確なものではありません。

      近日点通過時刻 = 1998 May 8.836TT  近日点引数 = 111.565
                                         昇交点黄経 = 350.707 (2000.0)
      近日点距離     = 0.15949 AU        軌道傾斜角 =  59.053

   日付      赤経(2000.0)赤緯    地心距離    日心距離    太陽離角    明るさ
   1998      時  分     度 分          AU          AU          度       等
    May 15  4 33.67  +17 11.3      0.880       0.294        16.0      2.4
        16  4 43.27  +15  7.8      0.865       0.324        17.8      2.8
        17  4 52.29  +13  1.7      0.853       0.355        19.7      3.2
        18  5  0.82  +10 54.4      0.844       0.385        21.6      3.5
        19  5  8.92  + 8 47.2      0.837       0.415        23.6      3.8
    May 20  5 16.67  + 6 40.8      0.833       0.444        25.6      4.1
        21  5 24.10  + 4 36.0      0.830       0.473        27.6      4.3
        22  5 31.25  + 2 33.3      0.830       0.502        29.5      4.6
        23  5 38.15  + 0 33.3      0.831       0.530        31.5      4.8
        24  5 44.83  - 1 23.9      0.833       0.558        33.4      5.1
    May 25  5 51.31  - 3 17.8      0.837       0.585        35.3      5.3
        26  5 57.60  - 5  8.3      0.843       0.612        37.1      5.5
        27  6  3.72  - 6 55.3      0.849       0.638        38.9      5.7
        28  6  9.69  - 8 38.6      0.857       0.665        40.6      5.9
        29  6 15.52  -10 18.3      0.865       0.691        42.2      6.1
    May 30  6 21.21  -11 54.2      0.875       0.716        43.8      6.3
        31  6 26.77  -13 26.6      0.885       0.741        45.3      6.4

 なお、太陽観測宇宙天文台ソーホーを人工衛星と紹介している新聞を見かけましたが、ソーホーは地球を回る衛星ではありません。これはラグランジュ点と呼ばれる力学上の平衡点に置いた人工天体で、いつでも太陽と地球を結ぶ直線上、地球から太陽に向かって約150万キロメートルのところにあって、太陽観測をおこなっている天文台です。地球と一緒に1年に1回の割合で太陽を回っていますから、一種の人工惑星といってもいいかもしれません。

 このソーホーは、上記の C/1998 J1 を含めて、これまでに全部で44個もの彗星を発見していて、これらはすべてソーホー彗星と呼ばれます。これらソーホー彗星のほとんどはクロイツ群といわれる「太陽をかすめる彗星」の群に属します。この群の彗星は近日点距離が0.01天文単位以下、多くは0.0055天文単位程度で、太陽表面すれすれにまで近付く性質があります(太陽半径は0.0047天文単位)。そのため、太陽に接近して急激に明るくなったときに、ソーホーによって彗星として観測されるのです。その後太陽から遠ざかるとまた暗くなりますから、ソーホー彗星の大部分は地上から観測することができません。

 しかし、クロイツ群には属していないソーホー彗星も、これまでに C/1997 H2,C/1997 L2, C/1998 J1 と3個発見されています。この中では、今回話題になっているC/1998 J1 がもっとも明るいので、地上からの観測が期待されるのです。

参照

1998年5月14日        国立天文台・広報普及室

訂正 :
天文ニュース(171)の「あかえい星雲」の記事で、SAO星表の出版年を1996年とお伝えしましたが、正しくは1966年で、タイプミスによる誤りでした。お詫びして訂正いたします。

転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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