すばる望遠鏡、若い小惑星の表面に宇宙風化していない証拠を発見か?

 小惑星は、主に火星と木星の軌道の間に存在する岩石質の小天体です。この小惑星が高い密度で存在する領域を小惑星帯と呼んでいます。軌道が決まっている小惑星の数は、今では9万6千個に上っています(2004年10月末現在)。これらの小惑星の軌道を詳しく調べていくと、同じような軌道の性質を持つものが多数見つかることがあります。これらを小惑星の族と呼んでいます。

 小惑星帯では、稀に小惑星同士の衝突が起きることがあります。族の起源の有力な説のひとつが、この小惑星同士の衝突です。衝突によって生じた破片は、大きく違った軌道にはならず、みな似たような軌道の性質を持つようになりますから、それらが族となるわけです。

 小惑星の族の中で、カリン族というものがあります。最近の軌道の研究から、カリン族は今から約580万年ほど前に生じた族ではないか、といわれるようになり、注目を集めている小惑星の族です。もし、580万年前というのが本当ならば、それは46億年の太陽系の歴史から考えると、ごく最近になって生まれた族ということになります。そして、族の誕生が小惑星の衝突であれば、その族の中では最も大きい小惑星であるカリンは、最大の破片であるはずで、衝突の痕跡がその表面に残されているはずです。

 カリンをはじめとする小惑星は、一般に遠くて小さいため、探査機を近づけない限りは表面の様子を調べることはできません。しかし、小惑星は自転をしますので、自転に伴って太陽の反射光の変化を調べることで、その表面がおおまかにどのようになっているかがわかるはずです。もし、580万年前に起きた衝突によってフレッシュな表面が残されていれば、宇宙風化をまだ受けていないはずですから、赤外線の観測を行うことで確かめられるかもしれません。

 東京大学、国立天文台、ぐんま天文台などのメンバーからなる研究チームは、カリンの表面の宇宙風化の程度を調べるため、2003年9月にすばる望遠鏡を使って観測を行いました。その結果、自転に伴って、赤外線の反射スペクトルが急激に変化していることがわかったのです。隕石や宇宙風化の実験結果などと考え合わせると、これはカリンの表面に、まだ宇宙風化していない領域があること、つまり最近の衝突によってまだ風化していない内部が表面にあらわれていることを示しています。この結果は、アメリカ・アリゾナ州のバチカン天文台で行われた独立な観測でも確認されました。

 このように族の中核をなす小惑星の表面に、衝突の痕跡を示唆する証拠が観測的に得られたのは、これが初めてです。またひとつ、すばる望遠鏡は大きな成果をあげたといえるでしょう。

参照

2004年11月10日            国立天文台・広報普及室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)