すばる望遠鏡がとらえた暗黒物質分布の「ゆがみ」

 国立天文台などの研究者からなる国際研究チーム (注) は、すばる望遠鏡による観測データに基づき、銀河団中の暗黒物質の空間分布の精密な測定を行いました。その結果、銀河団中の暗黒物質の空間分布が、単純な球状ではなく、大幅にゆがんだ扁平な楕円状の分布をしている証拠を得ることに、初めて成功しました。

 さまざまな観測結果から、宇宙には、観測可能な通常の物質の約5倍の質量の暗黒物質が存在することが明らかになってきていますが、その正体は依然として不明です。

 暗黒物質の正体を探る方法の一つとして、観測データから暗黒物質の空間分布を詳細に調べ、それを理論計算値と比較することで、その性質を間接的に推定するという方法があります。

 暗黒物質は、文字通り暗黒で光を発しないため、その詳細な空間分布を調べることは非常に困難です。しかし、重力レンズ効果を利用すると、その分布を実際に測定することが可能になります。例えば、暗黒物質が集中した場所では、その背景にある銀河が発する光の経路は暗黒物質の重力によって曲げられ、その結果、銀河の形が系統的にゆがんで観測されます (重力レンズ効果)。このゆがみのパターンを測定することで、銀河より手前にある暗黒物質の分布を推定することができます。

 国立天文台の大栗真宗 (おおぐりまさむね) 研究員、東京大学の高田昌広 (たかだまさひろ) 特任准教授を中心とする研究チームは、すばる望遠鏡の主焦点カメラで撮影された18個の銀河団の画像を解析し、暗黒物質の分布を精密に測定しました。その結果、銀河団内の暗黒物質の空間分布が球状ではなく、大幅にゆがんだ扁平な楕円状の分布をしている強い証拠を得ることに初めて成功しました。

 暗黒物質が銀河団中でどのように分布するかは、その暗黒物質の性質によって大きく変わることが理論的に予測されています。現在の標準的な理論からは、銀河団中の暗黒物質は大きくゆがんだ密度分布を持つことが期待されていますが、今回の分布の測定結果をこの理論と比較したところ、ゆがみの度合いまで含め、よく一致することが明らかになりました。

 今回の結果は、現在の標準的な暗黒物質の理論を強く支持する全く新しい証拠となるだけでなく、暗黒物質の分布の「ゆがみ」からその正体にせまる可能性を初めて示したという意味でも重要な結果と言えます。

注:大栗真宗 (国立天文台)、高田昌広 (東京大学)、岡部信広 (台湾中央研究院)、Graham P. Smith (バーミンガム大学)

参照:

2010年4月28日            国立天文台・広報室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)