日本初の位置天文観測衛星 Nano-JASMINE、打ち上げが正式決定

 現在、国立天文台を中心として、人工衛星を用いて銀河系内の恒星の位置、年周視差 (注1)、固有運動を高い精度で測定する計画 JASMINE (ジャスミン、注2) が進められています。この計画では、3種類の衛星を順次打ち上げて観測を行っていきますが、このたび、シリーズ最初となる衛星の打ち上げが正式に決定しました。これは、位置天文観測衛星としては日本で初めて、世界で2例目となります。

 位置天文学は、天体の天球上での位置や天体までの距離などを調べる天文学の一分野です。天体の精密な位置や距離は、銀河系の構造や進化の過程を解明するために不可欠な情報となります。

 太陽系近傍の恒星の距離については、年周視差を用いた求め方が最も信頼のおけるものであり、これは、さらに遠方の天体までの距離を調べるための基準となります。位置天文観測衛星では、大気の影響がない宇宙空間で観測を行うことによって、天体の位置や距離をより精密に調べることができます。

 JASMINE では、超小型・小型・中型の3種類の衛星 (搭載望遠鏡の口径がそれぞれ5センチメートル、30センチメートル級、80センチメートル級) を順番に打ち上げて、恒星の位置や距離を観測していきます。この一連のシリーズ最初の超小型位置天文観測衛星 Nano-JASMINE (ナノジャスミン) が、2011年8月に、ブラジルのアルカンタラ発射場より、ウクライナのサイクロン-4 ロケットを用いて打ち上げられることが決まりました。

 この Nano-JASMINE は、国立天文台、東京大学、京都大学が中心となって開発を進めてきた日本初の位置天文観測衛星で、世界でもヒッパルコス (注3) に続く2例目となります。

 Nano-JASMINE は、搭載される望遠鏡の口径が5センチメートル、衛星の重量が35キログラム、サイズが1辺50センチメートルの立方体という超小型衛星でありながらも、検出器の性能向上などにより、ヒッパルコスと同程度となる約3ミリ秒角の位置精度での観測が期待されます。また、ヒッパルコスのカタログと組み合わせることで、固有運動の精度がこれまでよりさらに1桁高い位置カタログの作成も期待されています。

 この衛星の打ち上げは、日本にとって、宇宙空間での位置天文観測の発展へつながる大きな一歩と言うことができます。

 JASMINE では、今後の打ち上げを目指す小型・中型の衛星で、10マイクロ秒角の精度達成を目指し、さらなる銀河系内の恒星の位置観測を行う予定です。とくに、赤外線で観測することで、可視光線では見ることができないバルジ部分の恒星分布を明らかにすることを目指しています。

注1:地球が太陽の周りを公転しているため、恒星は見かけ上天球を楕円運動する。その楕円の長半径のこと。この大きさを測定し、恒星までの距離を求める。

注2:日本赤外線位置天文観測衛星計画。Japan Astrometry Satellite Mission for INfrared Exploration の略。

注3:1989年に欧州宇宙機関 (ESA) が打ち上げた、世界初の位置天文衛星 Hipparcos (HIgh Precision PARallax COllecting Satellite、高精度視差観測衛星)。距離約330光年以内にある12等程度の恒星までの距離を精密に定めた。1993年に運用を終えている。

参照:

2010年4月26日            国立天文台・広報室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)