渦巻銀河M81の淡い外部構造に記された銀河形成史

 国立天文台の有本信雄 (ありもとのぶお) 教授らの研究チーム (注1) は、すばる望遠鏡の主焦点カメラを用いた観測で、渦巻銀河M81の外側に分布する個々の星を詳細に調べ、この銀河の外部領域の構造を初めて明らかにしました。

 今回の観測で、M81の外部領域の星は、銀河系のものに比べると数倍も明るく、重元素 (注2) 量も高いことがわかりました。これは、一見銀河系と似たように見える渦巻銀河であっても、その形成の歴史は多様であり、外部領域がその理解のための鍵を握っていることを示しています。

 M81は約1200万光年の距離にあり、銀河系と同じグループに属する銀河を除いては、銀河系に最も近い渦巻銀河の一つです。そのために銀河形成のモデルを検証するのに最も適した「実験台」とされています。

 多くの天文学者に支持されている銀河形成理論によると、M81や銀河系のような大型の渦巻銀河は、多数の小さな銀河が重力による相互作用で合体して形成されたと考えられています。このように、小さな銀河から大きな銀河へと合体によって無秩序的に成長してゆく渦巻銀河の外側には、ハローと呼ばれる広がった星の構造が残ります。

 これまで、アンドロメダ銀河 (M31、距離約250万光年) をはじめ、銀河系と同じグループに属する銀河のハローの星については、多くの望遠鏡で観測が行われてきました。しかし、研究チームはこのたび、すばる望遠鏡を用いたM81の観測で、銀河系とは別のグループに属する銀河としては初めて、明るい円盤部の外側に淡く広がるハローとおぼしき構造を発見しました。

 この広がった構造の光はあまりにも淡く、夜空のほうが100倍も明るいほどですが、すばる望遠鏡の強力な集光力のおかげで、M81の周辺に広がる一つ一つの星を写しだすことに成功しました。加えて、主焦点カメラの広い視野をいかしてM81の外側を広範囲にわたって観測し、その構造の物理的な特性を解析することができました。

 この構造に含まれる星の広がり具合は、銀河系のハローによく似てはいるものの、幾つかの点で様子が異なっていることが判明しました。たとえば、銀河系のハローに比べると、全体として数倍も明るく星の重元素量も2倍近くあることがわかりました。

 このような違いは、M81が銀河系よりもはるかに多数の小さな銀河を飲み込んだことによるのかもしれません。あるいは、M81の外側の広がった構造は、銀河系とは全く異なる歴史を経て形成されたのかもしれません。

 いずれにしろ、今回の観測は、一見銀河系とよく似た渦巻銀河であっても、その外部領域は多様であり、銀河の成長を理解する鍵を握っていることを示しています。

 この研究結果は、米国の天文学専門誌「アストロノミカル・ジャーナル」の2009年11月号に掲載されました。

注1:有本信雄 (国立天文台)、
   Barker M. K. 、Ferguson A. M. N. (エジンバラ大学)、
   Irwin M. (ケンブリッジ大学)、
   Jablonka P. (ジュネーブ天文台)

注2:ここでは、ヘリウムよりも質量の大きな元素の総称

参照:

2010年3月19日            国立天文台・広報室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)