重力波は、アルバート・アインシュタインの一般相対性理論により、その存在が予測されています。1960年代から世界各国で検出の試みがなされていますが、いまだ直接観測されていません。重力波は、巨大な質量を持つ天体が光速に近い速度で運動するときに、強く発せられます。例えば、ブラックホールの衝突や超新星爆発、そして宇宙誕生の瞬間にも、重力波が発生すると予測されています。
重力波は、時空間のわずかなひずみとして、光と同じスピードで伝わり、何でも素通りしてしまうという性質を持つと考えられています。したがって原理的には、可視光や電波といった電磁波では直接観測することができない宇宙誕生の瞬間 (時間という概念ができた瞬間) まで、重力波によって直接観測することが可能です。
重力波は、時空のひずみとしてやってきます。時空がゆがむと物体間の距離が変化します。重力波を直接観測するには、この性質を利用し、あらかじめ距離がわかっている物体間の距離の変化を計測する方法が用いられます。距離の変化量の計測にはレーザー干渉計を用いるのが現在の主流です。この際、物体間の距離が長ければ長いほど、距離の変化も大きくなり、計測が容易になります。そこで、国立天文台のTAMA300をはじめとする、数百メートルから数キロメートルの大型レーザー干渉計が世界各地で建設され、重力波検出の試みがなされています。
その中でもアメリカの検出器LIGO (Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory) は、現在最も感度が高い装置です。今回2年間の観測データの解析により、宇宙の始まりからやってくる重力波に対する新しい上限値を求めることに成功しました。詳しい解析の結果、重力波のエネルギー密度は、100ヘルツ付近の周波数帯において、宇宙の臨界エネルギー密度の6.9×10の-6乗未満であることが分かりました。これは、これまでの上限値である、ビッグバン元素合成や宇宙マイクロ波背景放射から得られる間接的な限界を、100ヘルツにおいて上回るものです。
この結果から、比較的強い重力波のエネルギー密度を予測している初期宇宙進化モデルは、棄却されることになります。また、超弦理論や弦理論に基づくモデルに対しては、これまでよりも厳しい制限が付くことになります。
この研究成果は、2009年8月20日発行の英国の科学雑誌「ネイチャー」に掲載されました。
注:国立天文台重力波プロジェクト推進室のメンバーの一部も、The LIGO Scientific Collaborationのメンバーとして共著者に含まれる>
2009年9月4日 国立天文台・広報室