惑星状星雲の内部全体にわたって、彗星のような形をした多数の塊が分布していることが、すばる望遠鏡の近赤外線カメラ MOIRCS (注1) を用いた観測によって、わかりました。塊の数は約4万個にものぼり、同心円状に広がっている様はまるで「宇宙の花火」のように見えます。
惑星状星雲は、寿命を迎えた星から失われたガスやちりが霧状に星の周りを取り巻いて、明るく輝いている天体です。「花火」のように見えますが、この星は超新星のように爆発をしているわけではなく、おおよそ1万年から100万年くらいかけて、ゆっくりと、ガスやちりからなる花火の形を作り上げたと考えられています。
惑星状星雲の中心に残された星の表面温度は非常に高温で、今回の観測の対象となった「らせん状星雲 (NGC 7293)」の場合、およそ123,000度になります (太陽は約6,000度)。この中心星から発せられる強烈な紫外線によって、星の周りを取り巻くガス (星雲) は、通常、電離してプラズマの状態で存在しています。ところが、この惑星状星雲の中には、強烈な紫外線にさらされた状況では存在しないはずの水素分子が存在することが知られていました。なぜ水素分子が電離せずに分子でいられるのか、その原因はよくわかっていませんでした。
水素分子は、ある程度は紫外線を遮ることができます。そのため、水素分子が塊になっていると、塊の内側に分布する水素分子は表面側に分布する水素分子の陰に入り、紫外線によって電離されずに分子として存在することができるのだと考えられます。一方、塊の表面は紫外線や中心星から吹いてくる粒子の風の影響を受けるので、少しずつ水素分子が塊からはがされていきます。塊から蒸発して飛ばされた水素は、中心星と反対方向にしっぽを作り、あたかも彗星のような形を作ると考えられます。塊から離れたところでは水素分子の密度は低くなり、紫外線を十分に遮るができず電離していきます。実際、電離した水素ガスは、一部は塊の表面からも見つかりましたが、大部分は塊の周辺に霧状の成分として見つかっています。
水素分子で見つかった塊は彗星のような形をしていますが、一つ一つの核の部分の大きさは、直径が400天文単位ほどにもなります。これは太陽系における冥王星の軌道の5倍にもあたる、非常に大きなスケールです (ただし、この大きさは蒸発していく水素の蒸気が膨らんで見えるためで、中にある水素分子の塊はもっと小さいものであると考えられています)。
らせん状星雲までの距離は約710光年で、比較的近くにある天体のため、見かけの大きさは月の半分程度もあります。すばる望遠鏡の近赤外線カメラ MOIRCS は、8メートル級の望遠鏡に搭載されたカメラの中では視野が格段に広く、このような見かけのサイズが大きな天体であっても効率的に観測することが可能です。さらに、すばる望遠鏡の8メートルという口径を活かして、高感度、高分解能の画像を得ることができ、それが今回の水素分子を含んだ多数の「彗星の形をした塊」の詳細な画像に得ることに結びつきました。この研究結果は、惑星状星雲のみならず、星間空間や星生成領域など紫外線が強い条件下でどのように分子と電離ガスが共存しているのかを知る手がかりになるでしょう。
この研究は2009年8月発行の米国の天体物理学専門誌 「アストロフィジカル・ジャーナル」701号に掲載されます。
注1:すばる多天体近赤外撮像分光装置 (通称: MOIRCS = Multi-Object InfraRed Camera and Spectrograph、呼び名: モアックス) は、東北大学と国立天文台とが共同で開発した装置で、天体から届く近赤外線の撮像及び分光観測を行う装置です。近赤外線用としては巨大な400万画素の検出器2つを備え、世界の口径8-10メートル級望遠鏡の中では最大の視野4分角X7分角 (1分角は1度の60分の1) を誇ります。
注2:松浦美香子さん (現在、イギリス・ロンドン大学所属) は、観測当時、日本学術振興会の特別研究員として国立天文台で研究を行っていました。
2009年8月4日 国立天文台・広報室