従来からの天体観測といえば、望遠鏡に取り付けたカメラで星の光を待ち構えるスタイルです。最先端の観測では、レーザービームを上空に照射し、得られる情報で観測精度を高める「レーザーガイド星生成システム」を用いることがあります。去る6月9日の夜半前、マウナケア山頂の夜空には3台の大型望遠鏡から照射されたレーザービームが同時に見られました。
地上で見られる天体の光は、上空の大気が揺らいでいるために乱れた像になっています。大気揺らぎによる光の乱れ具合を測定し、リアルタイムで像の劣化を補正して本来の光のクオリティーに近づける技術が波面補償光学です。波面補償光学装置を利用することで、すばる望遠鏡の分解能は10倍も高くなります。
ただし、波面補償光学装置を用いる際は、観測する天体の近傍に、揺らぎを測定するための明るい星 (ガイド星) がなければなりません。都合のよいガイド星がない場合に、威力を発揮する仕組みがレーザーガイド星生成システムです。レーザービームを観測天体近くの上空約90キロメートルの大気中に照射して人工の星を作り、大気の揺らぎを測定するガイド星とするのです。
マウナケア山頂にあるすばる望遠鏡、ケック望遠鏡、ジェミニ北望遠鏡の3台の大型望遠鏡には、それぞれ波面補償光学装置とレーザーガイド星生成システムが備わっています。すばる望遠鏡では、2006年暮れに初めてレーザービームの照射実験に成功しました。その後は精度を高めるため、さらなる試験観測を続けています。
3本のレーザービームが同時に照射された6月9日は月が明るい夜でしたが、ハワイ観測所の布施哲治 (ふせてつはる) さんは「肉眼では見づらいほど淡いレーザービームですが、長時間露光による撮影によってその姿をはっきりとらえることができました」と話しています。
※写真は、参照先のすばるトピックスのウェブページをご覧ください。
なお、写真に写るマウナケア山頂の景観が昼間のように見えるのは、月明かりのためです。
2009年7月3日 国立天文台・広報室