ALMA (注1) に搭載されるバンド10受信機 (注2) の研究開発チーム (チームリーダーは国立天文台 先端技術センター 鵜澤佳徳:うざわよしのり) は、周波数帯787ギガヘルツから950ギガヘルツの受信機として、世界最高性能の低雑音受信機を開発することに成功しました。
宇宙からの微弱な信号を検出しなければならない電波天文学では、超伝導状態を利用した受信機システムが使われています。超伝導状態では、非常に高い効率で電気信号を伝送することができるからです。
研究開発チームは、効率よく信号を伝える伝送路を持ち、かつ低雑音の超伝導集積回路の作製に取り組みました。化合物超伝導材料には、今回新たに窒化ニオブ・チタンを用い、情報通信研究機構未来ICT研究センターの協力を得て、その品質改善に取り組みました。厚さ270ナノメートルの窒化ニオブ・チタンの膜は、製作過程のさまざまな条件で品質が変わるために、高品質な膜を作製することは、大変困難でした。また、バンド10受信機で使われる超伝導集積回路は、サイズが数十マイクロメートルしかなく、設計通りの性能を実現するためには、高い製作精度が要求されました。
研究開発チームは、このような高い要求に応える回路を作製し、独自に開発した受信機システムに搭載して性能評価を行い、世界最高性能の低雑音受信機であることを証明しました。バンド10受信機がカバーする周波数帯では、カリフォルニア工科大学 (Caltech) や、オランダ宇宙研究機構 (SRON) が製作した受信機がこれまでの最高性能でしたが、いずれの場合も、ALMAの科学的目標を達成するには不十分な感度でした。さまざまな工夫を重ねて設計・開発したバンド10受信機は、CaltechやSRONが製作した受信機の性能を凌駕し、ALMAに搭載される受信機の中でも、開発が最も難しいとされてきたバンド10受信機の開発に成功したのです。
なおこの周波数帯には、医薬品や農薬などさまざまな試薬類に固有の吸収スペクトルが見つかっており、それらの試薬やガスの検出に対する応用が見込まれています。そのため、開発に成功したバンド10受信機が、ALMAに搭載され天文学の発展に大きく貢献するのはもちろんですが、本研究で確立された周波数1,000ギガヘルツ付近の信号を受信したり伝送したりする技術は、各種検査装置開発の基盤技術としての寄与も期待されます。
本成果は2009年6月16日から19日にかけて九州福岡で開催された超伝導エレクトロニクス国際会議 (ISEC 2009) において発表されました。
(注1) ALMA (Atacama Large Millimeter/submillimeter Array) は日米欧の国際協力で建設中の地上電波望遠鏡です。南米のチリ共和国の北部にあるアタカマ砂漠の標高約5,000メートルの高原に建設されています。
(注2) ALMAで観測する周波数帯域は、ミリ波からサブミリ波 (周波数では31.3ギガヘルツから950ギガヘルツ) と広範囲です。これらをカバーするため、観測周波数帯域を10個に区分し、10種類の受信機を日米欧で製作します。それぞれの周波数帯域は、周波数が小さいものから順にバンド1からバンド10と名づけられています。
原始惑星系円盤の物理状態を解明するなど、ALMAが目指す科学的目標を達成するには、0.01秒角の空間分解能 (大阪にある1円玉を東京から見分ける性能) が必要です。この最高空間分解能を達成するのが、バンド10受信機です。
2009年6月23日 国立天文台・広報室