太陽表面には周辺に比べて温度が低いために暗く見える場所があり、それを黒点と呼んでいます。そこは、太陽内部から浮き上がってきた磁力線の束が太陽表面に現れたところだと考えられています。太陽黒点の特に暗い部分 (暗部)にはたびたび「ライトブリッジ」と呼ばれる明るい割れ目が現われ、そこから黒点が粉々になっていくことがあります。これは黒点の磁束が分裂・崩壊する過程を理解する上で注目される構造です。太陽観測衛星「ひので」は、このライトブリッジの活動性を詳細に観測することに成功しました。
この観測により、ライトブリッジから秒速30-200キロメートルに達するジェット状のガス噴出が、間欠的に約1日半近くもの長時間にわたり発生していることがわかりました。通常太陽でのジェット現象は数分から数十分の短時間しか続かないため、このジェットは極めて変則的な現象です。
ジェットの発生には、向きの異なる磁力線がつなぎ替わること (「磁気リコネクション」) で得られる爆発的なエネルギーが必要だと考えられています。らせん状に強くねじれた磁力線とまっすぐな磁力線との間では、磁力線のつなぎ替えが起きても、つなぎ替えの原因となる反対向きの磁力線はその周辺に残ります。これがジェットを長時間維持するしくみだと考えられます。
この新しい観測は、らせん状にねじれた磁場が太陽面下から浮かび上がってくる様子を解明することが、太陽大気でのダイナミックな爆発現象の発生を理解する上で重要であることを明確に示しています。また、太陽観測衛星「ひので」の登場によって可能になったライトブリッジに対する精密な磁場計測や解析が、天体プラズマの磁気リコネクションの振る舞いや役割の理解を進めるものと期待されます。
本研究成果は、2009年5月1日発行の米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に掲載されました。
2009年5月19日 国立天文台・広報室