すばる望遠鏡、宇宙暗黒時代の終焉の解明に挑戦

 ビッグバンで始まった直後の宇宙は、全体としてはシンプルな世界でした。そこには陽子と中性子、それに電子からなるプラズマが満ちていました。宇宙誕生から約38万年後には、宇宙の膨張に伴って全体の温度が下がり、それまで宇宙を満たしていたプラズマは水素原子へと姿を変えたと考えられています。水素原子ガスが集まると、星が誕生し、光を放ちます。しかし、それにはしばらく時間がかかりました。この間に、宇宙ではどのようなことが起きていたのでしょうか。その様子はいまだに観測的に明らかにはなっていないため、文明史になぞらえて宇宙の暗黒時代と呼んでいます。

 宇宙の暗黒時代が終わりを迎えたのは、宇宙が誕生してから10億年ほどたった頃でした。宇宙のあちこちで誕生した“天体”が強烈な光を放ち、宇宙を満たす水素原子ガスを次々と電離させ、ふたたびプラズマの状態に戻したと考えられています。これを、宇宙の再電離と呼んでいます。宇宙を再電離させ、暗黒時代を終わらせた天体の正体はいったいなんであるのか。その候補の一つに挙げられているのが、宇宙で最初の銀河たちです。この時代に、どれくらいの数の銀河が、どれくらいの光を放っていたのでしょうか。

 これらの疑問を解決するため、国立天文台などの研究チームはすばる望遠鏡主焦点カメラを使って、初期宇宙における銀河を観測しました。約120億光年の距離にある若い銀河の大集団をターゲットに選び、水素を電離させるエネルギーを持った光だけを通す特製のフィルターを用いて198個の銀河を撮像観測し、光の強さを測定したのです。その結果、17個の銀河から水素を電離させるエネルギーを持った光が検出されました。さらに興味深いことに、いくつかの銀河からは予想を上回る強さの光が検出されました。もしかすると、このように強い光を放つ銀河が、宇宙の暗黒時代を終わらせる立役者だったのかもしれません。

 研究チームでは、どんな天体がどのように宇宙の暗黒時代を終わらせたのか明らかにするため、新たな観測装置などを用いて研究を進めたいと話しています。

 この研究結果は、2009年2月発行の米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に掲載される予定です。

参照:

2009年2月17日           国立天文台・広報室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)