国立天文台を含む日英などからなる国際研究チームは、セ氏約280度の星を含む、28個の低温度星 (恒星の表面温度がセ氏1200度以下の星) を発見したと発表しました。中でも、おとめ座方向約30光年の距離にあるULAS1335という天体は、温度がセ氏約280度と低温であることから、木星の約20倍程度の質量しか持たない褐色矮星と考えられ、惑星を除きこれまでで最も低温の星の発見です。
褐色矮星は、質量が軽い (太陽の0.075倍以下) ために通常の恒星のような水素の核融合反応が起こらない天体で、生まれてから時間が経つにつれ冷えてしまう低温度星です。このような天体はエネルギー放射のピークが赤外線波長域にあるため可視光線では非常に暗く、観測が難しい天体です。しかし、大口径望遠鏡の登場や観測技術の発達により、1980年代後半からはこれまであまり知られていなかった低温の星が見つかってきました。
研究チームは、現在、英国の口径3.8メートル赤外線望遠鏡を用いて、4000平方度という広い天域を、既存の赤外線観測データの10倍以上の感度で観測する広域赤外線探査を進めています。そして、この観測の初期データの一部 (約280平方度分) から独自の方法で低温度天体の候補を選び、すばる望遠鏡やジェミニ望遠鏡を用いて分光観測を行いました。その結果、28個の低温度星を確認しました。観測開始からわずか3年で28個もの低温度星の発見に成功したことで、研究チームが用いた方法が低温度星の探査に非常に有効であることが示されました。
この探査は現在も進行中で、探査が完了すれば、数百個の低温度星の発見が期待され、中には ULAS1335 より低温度のものが含まれる可能性があります。
こういった低温度星は、銀河系には何個くらい存在するのか、どんな性質を持っているのか、どのくらい温度の低い星まで存在するのかなど、まだ知られていないことがたくさんあります。
また、探査を進めている低温度星は、近年発見が相次いでいるホット・ジュピター (注) とほぼ同じ温度を持っています。このホット・ジュピターの大気を直接調べるのは困難ですが、低温度星については分光観測が可能なことから、ホット・ジュピターの大気組成を推測できるかもしれません。
ただ、低温の星になるほどその分光観測は困難で、8.2メートルの口径を持つすばる望遠鏡でも難しくなります。現在、次世代30メートル巨大望遠鏡や口径3.5メートルの宇宙赤外線望遠鏡の計画が進んでいますが、この低温度天体探査の成果は、次なる望遠鏡での観測のための基本となるデータベースを提供することが期待されます。
この研究成果は、日本天文学会2008年秋季年会で発表されました。また、この成果の一部は、英国の王立天文学会誌に掲載される予定です。
注:太陽系外惑星のうち、恒星からの距離が太陽-地球の距離の10分の1以下の軌道を短い周期で公転している大型のガス惑星。
2008年9月22日 国立天文台・広報室