板垣さん、金田さん、一世紀にわたって行方不明だった彗星を再発見

 超新星や新星の発見で知られる、山形県山形市のアマチュア天文家・板垣公一 (いたがきこういち) さんと、北海道札幌市のアマチュア天文家・金田宏 (かねだひろし) さんのお二人が、9月10日のわし座方向の観測画像から、かすかに尾を持つ彗星状の天体を見いだしました。その後の軌道解析により、この彗星は1896年に出現し、一世紀にわたって行方不明となっていたジャコビニ彗星 (D/1896 R2 (Giacobini) ) であることが判明しました。

 彗星という天体は、気まぐれな振る舞いをすることがあります。一般には、太陽に近づけば、暖められ、彗星の本体である核からガスや塵を放出し、それが太陽の光を浴びて明るくなります。ところが、周期的に太陽に近づく短周期彗星でも、回帰毎に明るさが異なることがあります。極端な場合は、回帰が予測されても、ほとんど明るくならず、誰にも観測されずに、そのまま見失われてしまうことさえあります。

 今回のジャコビニ彗星も、その例の一つといえるでしょう。周期が6.7年ほどの典型的な短周期彗星ですが、1897年の1月を最後に、その後の回帰時には観測されず、長い間行方不明になっていたものです。今回の再発見は、実に111年ぶりです。残念ながら明るさは13等台なので、簡単に見ることはできません。

 日本のアマチュア天文家が長い間行方不明だった彗星を再発見した例としては、1995年のド・ビコ彗星 (122P/de Vico) 以来の快挙となります。彗星という不思議な天体の謎を解く意味でも、行方不明になる彗星の再発見は重要です。このような彗星は、核に揮発成分がなくなりつつあるような、ほとんど枯れかかった状態にあると考えられ、それがときどき活発になっている可能性があるのですが、こういった彗星の振る舞いについては、よくわかっていません。

 九州大学の山岡均氏 (やまおかひとし、日本天文学会天体発見賞選考委員会委員長) は、「再発見ということで、板垣さん、金田さんの名前がつくことはないが、彗星という天体の謎を解く上でも、行方不明の彗星の再発見はたいへん意義がある。日本天文学会でも、表彰の候補として検討したい」と話しています。

参照:

2008年9月12日           国立天文台・広報室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)