日本も参加している国際ガンマ線天文衛星 (注) GLAST (グラスト、Gamma-ray Large Area Space Telescope) は、打ち上げから約2カ月間にわたる軌道上での性能検査を終え、科学的なデータを得る準備が整いました。これを区切りに、日本時間の8月27日未明、NASA (アメリカ航空宇宙局) は、GLASTの名称を「フェルミ・ガンマ線天文衛星 (Fermi Gamma-ray Space Telescope) 」と改名して発表しました。
この新しい名称は、高エネルギー物理学の開拓者であり1938年にノーベル物理学賞を受賞した、エンリコ・フェルミ (Enrico Fermi) 教授の功績をたたえたものです。
ガンマ線は、最も高いエネルギーを持つ電磁波で、人間の目で見えている可視光線に比べると100万倍のエネルギーを持っています。宇宙において、ガンマ線は、ブラックホールや中性子星、超新星残骸などと関連した現象から放射されます。つまり、宇宙での非常に激しい活動現象を反映する電磁波なのです。
フェルミ・ガンマ線天文衛星 (以下、フェルミ衛星) は、宇宙からのガンマ線を、高感度、広視野、高位置分解能で、連続的に観測できる画期的なガンマ線望遠鏡です。フェルミ衛星の観測データは、ブラックホールや、中性子星、超新星残骸によって、どのように物質が加速されるかを解明するための手がかりを与えてくれると期待されています。また、謎に包まれたガンマ線バースト現象を明らかにする上でも、貴重なデータをもたらしてくれるでしょう。
フェルミ衛星には日本の研究者も重要な貢献をしています。たとえば、高視野・高感度でガンマ線を観測するために衛星に搭載された「ガンマ線大面積望遠鏡 (LAT) 」には、広島大学の研究チームと浜松ホトニクスによって開発されたセンサーが使われています。また、衛星の運用も、米国、欧州と共同でおこなっています。
フェルミ衛星の観測データを使った日本国内の大学・研究機関の研究体制も整いつつあり、今後の成果が期待されます。
たとえば、広島大学の光学赤外線望遠鏡「かなた」や東京工業大学のガンマ線バースト残光追跡観測用望遠鏡「MITSuME (三つ目) 」、X線天文衛星「すざく」などは、フェルミ衛星によって検出されるガンマ線バースト現象や、ガンマ線領域での突発現象天体を別の波長で観測する準備を整えています。
国際宇宙ステーションの日本モジュール「きぼう」に設置予定の全天X線監視装置MAXIの観測チームは、ブラックホールや中性子星の周りで起こるフレア現象をフェルミ衛星のガンマ線観測と合わせて総合的に解析することで、それらの背景にある物理の基礎過程の理解が進むと考えています。
また、名古屋大学を中心とする研究チームは、銀河系内の宇宙線が巨大分子雲と相互作用して生成すると考えられているパイ中間子の検出に大きな期待を寄せています。
注:フェルミ・ガンマ線天文衛星は、米国、日本、イタリア、フランス、スウェーデン、ドイツの協力で開発された、大型の国際ガンマ線天文衛星。6月12日1時5分 (日本時間)、米国のケープ・カナベラル空軍基地から、高度560キロメートルの円軌道に打ち上げられた。日本からは、広島大学、東京工業大学、東京大学、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) の宇宙科学研究本部 (ISAS) の研究者が衛星の開発に参加している。
2008年8月29日 国立天文台・広報室