マックスプランク天文学研究所 (ドイツ)、国立天文台などからなる研究チーム (注1) は、すばる望遠鏡を用い、超新星残骸「カシオペヤA」の周辺に確認された超新星爆発当時の光の「こだま」の分光観測に成功しました。その結果、カシオペヤAのもととなった星の正体を明らかにしました。過去に発せられた光の「こだま」は非常に暗く微かなものですが、すばる望遠鏡の集光力を生かして観測し、それを解析した結果、カシオペヤAの起源に初めて迫ることができたのです。
超新星残骸「カシオペヤA」は、我々の銀河系の中では比較的新しい超新星爆発の残骸だと考えられています (注2)。我々の銀河系内で起こる超新星爆発は肉眼でも観察可能な明るさであることから、各国の歴史的文献にその詳しい記述が残されていることが多いにも関わらず、このカシオペヤAのもとになる超新星爆発についてはほとんど記録がありません。超新星残骸の膨張速度から逆算した結果から、1680年頃に超新星爆発が起こったと推定されてはいるものの、その正確な時期や、どのような種類の超新星爆発だったのかは正確には明らかにされていませんでした。また、なぜ当時の人々による目撃記録がなかったのかも、大きな謎のひとつでした。
2005年のスピッツァー宇宙望遠鏡を使った観測で、カシオペヤAの周辺に高速で外側に移動する赤外線源が見つかりました。超新星爆発を起こした天体の周辺にある塵が、爆発時に放射された紫外線や可視光線によって温められた結果、再放射された赤外線が伝播していく現象が観測されたのです。このような場所では、この塵によって反射された可視光線が淡いながらも観測できるはずです。これは、いわば音の「こだま」のように、超新星爆発当時の可視光線が遅れて観測者のもとに届いたものと考えることができます。この、爆発から約300年たって届いたカシオペヤAからの可視光線の「こだま」を観測し解読することで、超新星爆発が起こった当時のようすを知ることができるのです。
研究グループは、すばる望遠鏡の微光天体分光撮像装置 (FOCAS) を用いて、可視光線の「こだま」の分光観測を行いました。この「こだま」は非常に淡く、口径8メートルのすばる望遠鏡の集光力をもってしても困難なものでしたが、5時間を超える長い観測の末、その「こだま」のスペクトルを得ることに成功しました。こうして得られたスペクトルから、カシオペヤAは、赤色超巨星がIIb型の超新星爆発を起こした結果生じたものであることが明らかになりました。
IIb型超新星爆発は、進化の進んだ大質量星の表面 (外層) が、そのまわりを回る伴星によってはぎ取られてしまった状態で重力崩壊型の超新星爆発を起こしたものと考えられています。外層が残ったまま爆発する場合に比べると、爆発後短期間で暗くなるという特徴があります。そのため、肉眼で確認できる期間が短く、それが当時の観測記録が存在しない理由のひとつではないかと推測されます。
カシオペヤAの生い立ちについては数々の論争がありましたが、それもようやくここで終止符が打たれることになりました。
この研究成果は、5月30日発行の米国の科学雑誌「サイエンス」に掲載されました。
注1:主な研究メンバー
Oliver Krause(オリヴァー・クラオゼ、マックスプランク天文学研究所・研究員)
後藤美和 (ごとうみわ、マックスプランク天文学研究所・研究員)
臼田知史 (うすだとものり、国立天文台ハワイ観測所・准教授)
服部尭 (はっとりたかし、国立天文台ハワイ観測所・研究員)
ほか
注2:2008年5月に、チャンドラX線天文台によって140年前に起きた超新星爆発の残骸が発見されるまで、カシオペヤAは銀河系で最も新しい超新星残骸と考えられていました。
2008年6月4日 国立天文台・広報室