国立天文台、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) などによる研究チームは、太陽観測衛星「ひので」によるプロミネンスの観測から、コロナ磁場中を伝播するアルベン波を発見しました。この波はコロナの加熱に重要な役割を果たすと考えられ、長い間謎とされていた「コロナ加熱問題」を解明する鍵として期待されます。
「ひので」は非常に安定した解像力で、太陽表面やコロナ中の小さな構造やその動きの観測を続けています。2006年11月の観測では、プロミネンスが活動的に動き回る多数の細長い筋状構造の集まりであることを捉えました。さらに、このプロミネンスの動画から、これらの筋状構造が鉛直方向に振動していることが発見されました。この振動は非常に微小で、これまでの地上での観測からは発見されていません。研究チームがこの鉛直振動の性質を解析したところ、コロナ中の磁場を伝播するアルベン波によって引き起こされている振動であると結論付けられました。
アルベン波とは、磁場に沿って伝わる特殊な波動のことで、紐を手で揺すったときに伝わる波に似ています。この波は、太陽物理学において長年の謎とされている「コロナ加熱問題」解決の鍵と考えられています。
太陽の表面温度は約6千度であるのに対し、その上空にある太陽コロナは100万度を超える超高温で、何がこれほどコロナを温めているのか、その機構は大きな謎となっています。これが「コロナ加熱問題」と呼ばれるものです。
これを説明する理論の一つに、磁場を伝わる波のエネルギーがコロナ中で熱に変換されるという「波動加熱説」があります。
太陽は、その表面からコロナに伸びる磁場で覆われており、この磁場が太陽表面の対流運動などによって揺すられ、波 (アルベン波) が発生すると考えられています。そして、この波のエネルギーがコロナ中へ輸送されそして散逸されれば、コロナを温めることができます。しかし、アルベン波の発生、伝播、散逸の現場のいずれも、「ひので」以前の観測からは捉えることができませんでした。
今回の「ひので」によるコロナ中を伝播するアルベン波の発見は、波動加熱説を支持する要素の一つを初めて観測的に捉えた重要な成果です。また、今回見つかったアルベン波は、コロナの加熱に十分なエネルギーを輸送していることもわかり、コロナの加熱機構の解明に重要な進展をもたらすことが期待されます。
この研究成果は、12月7日発行の米国の科学雑誌「サイエンス」に掲載されました。
2007年12月28日 国立天文台・広報室