国立天文台、東京大学などの研究チームは、矮小楕円体銀河 Leo II をすばる望遠鏡を用いて観測し、この銀河がこれまで見えていた範囲よりずっと大きな広がりを持っていることを明らかにしました。また、この銀河を構成する星の分布を詳細に調べることで、星形成の歴史が明らかになってきました。
Leo II は、明るさが銀河系の10分の1程度より暗い銀河である矮小銀河に分類され、質量は銀河系の2万分の1 (太陽質量の1千万倍) というたいへん小さな銀河です。このような矮小銀河は、局部銀河群 (注1) に少なくとも20個以上存在していることが知られています。
銀河系のような大きな銀河は、矮小銀河を多数飲み込むことで大きな銀河へと成長してきたと考えられており、銀河系近傍に現存する矮小銀河はそれらの生き残りとも言えます。こういった矮小銀河を調べることは、それ自身がどのように生まれ進化してきたかを知るために重要であるだけなく、銀河系のような大きな銀河の進化を探る上でも重要です。しかし、矮小銀河はたいへん暗いため、詳細な観測を行うためには大型望遠鏡が必要です。
そこで、研究チームはすばる望遠鏡を使い、76万光年という地球から比較的近い距離にある矮小楕円体銀河 Leo II の観測を行いました。広い視野を持つ主焦点カメラを用いることで、銀河の外側を含めた広い範囲を観測でき、その広がりや、構成する星の場所による性質の違いを調べることが可能です。また、銀河を構成する星の個々の明るさや色を測定し恒星進化理論と照らし合わせることで、この銀河の進化を詳細に調べることも可能です。
今回の観測から、今まで星がないと考えられていた銀河の外側にも確実に星が存在していることがわかりました。また、これらの星の分布をさらに詳しく調べると、銀河の東側に非常に暗いながらも細長い構造が存在することが明らかになりました。この観測結果だけでは、この構造がどのようにできたか詳しく知ることはできませんが、比較的古い年齢の星で占められていることから、球状星団のような古い星団が、まさに Leo II の潮汐力によって壊されている姿を見ていると考えられます。
一方、内側の星の分布に注目すると、場所により構成する星の性質が大きく異なることが明らかになりました。ほとんどが年老いた星で構成される Leo II ですが、中心付近にはまだ若い星が存在しているのです。この結果、この銀河は、はじめは銀河全体にわたって星が生まれていたものの、80億年ほど前から徐々に星形成活動が銀河の外側から終息してきて、40億年ほど前には、ついに中心部を除いて星形成がほとんど止まってしまったと考えられるのです。
このように、見かけは小さく単純な形の矮小楕円体銀河 Leo II も、実際はずっと大きな広がりを持っていたり、進化の歴史も単純ではないことがわかります。今後は、他の矮小楕円体銀河の観測を進めるとともに、このような矮小楕円体銀河の進化を説明するモデルを構築することが期待されます。
この研究成果は、2007年8月発行の米国の天文学専門誌「アストロノミカル・ジャーナル」に掲載されました。
注1:銀河系とアンドロメダ銀河 (M31) を中心として半径300万光年程度の範囲に広がる銀河の集団。局部銀河群に属する銀河は、不確定なものも含めると全体で40個以上になる。
2007年12月11日 国立天文台・広報室