月周回衛星「かぐや」打ち上げ成功

 「かぐや」(SELENE: セレーネ) は、これまでで最も観測分解能の高い月周回科学探査衛星です。15の観測機器が搭載され、月の起源や進化の謎にせまる情報を取得します。「かぐや」は、2007年9月14日10時31分 (日本標準時) に H-IIA ロケット13号機により、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) 種子島宇宙センターから打ち上げられました。今後、2回の地球フライバイの後、10月に月周回軌道に入り、2機の重力計測用の子衛星を分離する予定です。そして、11月より約1年をかけて、月全面の観測を行います。

 国立天文台では、レーザ高度計、リレー衛星、相対VLBI電波源 (VLBI衛星) の3つの新しい技術を用いた搭載器を、JAXA や九州大学、会津大学、国土地理院などの協力のもとに担当し、月の地形と重力の高精度データを取得する予定です。これらのデータから、地殻の厚さ、地下の密度異常、コアの密度など、月内部に関する重要な情報を得ることができます。

 レーザ高度計では、月全体の地形をおよそ1キロメートルの分解能で求めることが可能で、特に月の極域については初めて正確な地形を取得することになります。

 また、重力計測用の2機の子衛星 (リレー衛星とVLBI衛星) を使うことで、これまで正確なデータのない月の裏側の重力を詳細に調べることができます。月の重力は、「かぐや」主衛星の軌道を追跡することで取得されます。主衛星(月面からの高度100キロメートルの円軌道) が月の裏側にあるときは、その動きを直接に追跡することができません。そのため、リレー衛星 (注1) を経由して主衛星の運動を追跡し、重力を求めます。ただし、このリレー衛星は軌道制御がされないため、月重力の影響を受けて軌道が変化します。この軌道変化を正確に見積もることが高精度の重力場計測には不可欠になります。そのため、VLBI衛星 (注2) を使い、これら2つの子衛星からの電波を、同時に4基ないし8基の地上の電波望遠鏡で受信するVLBI観測を行うことで、正確にリレー衛星の軌道を決定します。

 VLBI (超長基線電波干渉法) は、もともとクエーサーなどの電波源が発する電波を、離れた場所にある複数の電波望遠鏡で同時に受信することで、電波源の詳細な構造を精密測定する方法ですが、これは衛星の高精度の位置決定に使用できます。今回の観測では、2つの子衛星の電波を交互に観測する相対VLBI法によって地球の電離層の影響で生じる衛星の位置の誤差を除くことができるため、これまでにない高精度の位置決定が可能になりました。

 地上からの観測では、国立天文台のVERA局 (水沢、鹿児島、小笠原、石垣島)のほかに、中国、オーストラリア、ドイツの天文台の電波望遠鏡を国際協力のもとで使用します。また、データ解析では、NASA (米国航空宇宙局) などとも協力を行います。

注1:リレー衛星は、楕円軌道で月を周回し、最も月に近づく点では高度100キロメートル、最も月から離れる点では高度2400キロメートルとなる。

注2:VLBI衛星は、楕円軌道で月を周回し、最も月に近づく点では高度100キロメートル、最も月から離れる点では高度800キロメートルとなる。

参照:

2007年9月14日           国立天文台・広報室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)