東京大学の研究者を中心とする日米共同チームは、こと座の方向およそ500光年の距離にある太陽系外惑星系 TrES-1 の観測を行い、中心の恒星の自転軸に対する惑星の公転軸の傾きを測定することに成功しました。この傾きを調べることは、多様な惑星系の存在を説明するために提案されている惑星形成のモデルに制限を与えるものです。今回の観測は、世界で3例目の測定例であり、また、これまでで最も暗いターゲットでの成功例となります。
1995年の最初の発見以来、太陽系外惑星は2007年7月までに200個以上が発見されています。これらの惑星の軌道を調べると、太陽系の惑星とは大きく異なる性質を持つものが多く存在していることがわかりました。例えば、木星のような巨大ガス惑星が中心の恒星のごく近くを公転していたり、非常に大きくゆがんだ楕円軌道をもっていたりするのです。このように多様な惑星系の存在を説明するために、さまざまな惑星形成のモデルが提案されています。
これらのモデルを検証する指標のひとつに、「中心の恒星の自転軸に対する惑星の公転軸の向きと角度」があります。例えば、中心星の近くをまわる巨大惑星を説明するために、原始惑星系円盤の中で巨大惑星が徐々に内側へ移動するというモデルが提案されていますが、この場合、惑星の公転軸が中心星の自転軸に対して傾くことはほとんどありません。一方、複数の巨大惑星が重力によってお互いをはじき飛ばすというモデルでは、惑星の公転軸が大きく傾き、結果として中心星の自転軸と惑星の公転軸のなす角度が大きくなる可能性があります。
系外惑星の中には、惑星が恒星のまわりを公転する際にその前面を通過し部分的に食を起こすトランジットと呼ばれる現象が観測されるものがあります。このトランジットにより、中心星の視線速度が変化して見えることがあり、この効果を用いると中心星の自転軸と惑星の公転軸のなす角度を測定することが可能になります。また、トランジットの際、中心星のみかけの明るさが通常より暗くなることから、明るさの変化を測定することで惑星のサイズを求めることができます。
研究チームは、TrES-1 について、すばる望遠鏡の高分散分光器 (HDS) を用いた視線速度観測と、東京大学のマグナム望遠鏡を用いた測光観測 (天体の明るさを測定する観測) を同時に行い、この効果を測定することに成功しました。その結果、この惑星が少なくとも中心星の自転方向と同じ向きに公転していること、中心星の自転軸と惑星の公転軸のなす角度が30度プラスマイナス21度であることを明らかにしました。ただし、まだ誤差が大きく今後の追観測の課題と言えます。
今回の観測の意義は、すばる望遠鏡を用いることで12等級程度の惑星系でも検出が可能なことを実証したことです。また、すばる望遠鏡とマグナム望遠鏡を組み合わせて、視線速度と測光データを同時取得する方法を確立させたことで、今後の観測手法の土台を築くことができたとも言えます。今後、次々と発見される系外惑星系の起源の研究に対して、大きなインパクトを与えることになるでしょう。
本成果は、8月25日発行の日本天文学会欧文研究報告誌に掲載されます。
2007年8月24日 国立天文台・広報室