国立天文台ハワイ観測所は、かに星雲として有名なメシエ1 (注) を、すばる望遠鏡を用いて観測し、その画像を公開しました。すばる望遠鏡の高解像力により、細かい構造まできれいに見えています。また、1988年11月10日にアメリカ・キットピーク天文台で撮影された画像と今回すばる望遠鏡で観測された画像の比較から、かに星雲の北部にある“突起状”の構造が、約17年間に星雲の膨張にしたがって移動していく様子も明らかになりました。
かに星雲は、冬の暗い夜空を彩る代表的な天体です。かに星雲はおうし座にあり、地球からの距離は約7200光年、大きさは約10光年あります。今からおよそ1000年前の1054年に起きた超新星爆発の残骸です。日本では、藤原定家の書いた日記「明月記」にもその現象が残されています。それを現代語に訳すと、「毎夜、午前二時過ぎになると東の空に見なれぬ星が現れ、おうし座ツェータ星のあたり、明るさは木星ほどである」(「かに星雲の話」より引用)。また、アメリカのアリゾナ州のホワイト・メサとナヴォホ−・キャニオンにあるネイティブアメリカン達によって描かれた壁画が、この超新星だったという説があります。
超新星爆発は星の一生の最期に起こる現象で、重い星が自らの重力に耐えきれなくなることが、その爆発の原因のひとつです。その爆発の際に、星を構成するさまざまな元素が宇宙空間に放出されます。こうして、はじめは水素とヘリウムしか存在しなかった宇宙空間に、重い元素がまき散らされてきました。
爆発の残骸は星雲として残り、それ以後も周囲のガスを取り込んで膨張を続けます。超新星爆発は1つの銀河の中で数十年に1回起こると言われています。重い星の最期では、その中心核が中性子からなる高密度の「中性子星」として残され、特に質量の大きな星であれば、ブラックホールが中心に残されると考えられています。
かに星雲の中心にある中性子星は、高速で回転しながらX線やγ (ガンマ) 線などをパルス状に放射しているため「かにパルサー」と呼ばれます。今回公開された画像は、すばる望遠鏡に主焦点カメラを取り付け、かに星雲の姿を撮影したものです。
かに星雲はこれまで数多くの望遠鏡で捉えられ紹介されてきましたが、広視野・高解像度・大集光力を併せ持つすばる望遠鏡が捉えたかに星雲の姿は、虚空に浮かぶ超新星残骸として、これまでとはひと味違う迫力あるものになりました。
(注)フランスの天文学者シャルル・メシエ (Charles Messier、1730-1817) が作成した星雲・星団・ 銀河のカタログを「メシエカタログ」と呼び、そのカタログに含まれる天体は、メシエ1、 メシエ2、あるいはM1、M2などと表記されます。今回画像を公開する「かに星雲」はメシエ1として大変有名です。
2007年3月13日 国立天文台・広報室