国際望遠鏡プロジェクトであるアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計 (ALMA)は日本時間3月3日 (土)、2台のALMA試作アンテナを結合し、ひとつのシステムとして動作させて天体を観測するという大きなイベントを成し遂げました。
「ファーストフリンジ」と専門的には呼び習わされるこのイベントは、アメリカ・ニューメキシコ州のVLA観測所内に設けられたALMA試験施設(ALMA Test Facility=ATF) において行われました。土星から到達した微弱な電波を2台のALMA試作アンテナで集め、それを最新鋭の電子機器 (相関器) によって処理することで、「干渉計」と呼ばれる一つの高解像度の望遠鏡システムを構成しました。
このような2台のアンテナの組み合わせは、ALMAのように多くのアンテナを組み合わせるシステムの最小の構成単位となるもので、それぞれのアンテナはその他の全てのアンテナとの組み合わせのために用いられ、それぞれのペアは観測天体の精細な画像を得るのに用いられる独立の情報を提供することになります。2012年の完成時にはALMAは最大80台のアンテナで構成されます。
チリ北部の標高5000メートルのアタカマ砂漠に位置するALMAは、ミリ波サブミリ波の波長帯で宇宙を観測するための世界随一の観測装置となります。ALMAは現存するどの望遠鏡よりも微弱な天体を観測でき、はるかに高い画質を得ることができます。この望遠鏡を用いて、研究者は宇宙初期に生まれた最初の星や銀河の研究や、星の形成過程の詳細についての研究、生まれつつある星や惑星の表面に向かって流れ込むガスの運動を描き出すことを心待ちにしています。
「この実験の成功は、ALMAのために開発中のハードウェアとソフトウェアが真に革新的な天文学観測装置を構成するために機能することを示しています」とALMAのマッシモ・タレンギ (Massimo Tarenghi) プロジェクトディレクターは語っています。
ALMAのファーストフリンジによって動作が確認された最先端の電子機器、電子光学機器、専用ソフトウェアに加え、アンテナそのものも世界最先端の性能を持つものです。ALMAのアンテナに課せられた高い要求性能の中には、例えば究極の鏡面精度や、アンテナを狙った方向に正確に向けるための指向精度、ALMA建設地の高い標高で過酷な使用環境で安定に運用できることなどが含まれています。
ALMAは国際的な天文観測施設であり、ヨーロッパ、日本、北アメリカのパートナーシップにより、チリ共和国の協力の下に進められています。ALMAの予算は、ヨーロッパにおいてはヨーロッパ南天天文台 (ESO) が、日本では台湾の中央研究院との協力の下に自然科学研究機構が、また北アメリカではカナダ国立研究協議会 (NRC) との協力の下に米国国立科学財団 (NSF) が、それぞれ支出しています。ALMAの建設と運用は、ヨーロッパ側を代表してESOが、日本側を代表して国立天文台が、そして北アメリカ側を代表してアメリカ北東部大学連合 (AUI)の監督の下に米国国立電波天文台 (NRAO) が、それぞれ行っています。
2007年3月9日 国立天文台・広報室