すばる、銀河からまっすぐにのびる謎の水素ガス雲を発見

 国立天文台と東京大学の合同研究グループは、すばる望遠鏡主焦点カメラと水素の電離輝線を捉える特殊なフィルターによる撮像観測 (注1) を行い、我々からおよそ3億光年離れたかみのけ座銀河団に属する銀河の一つ (D100) から、水素の電離ガスが細くまっすぐに伸びていることを発見しました。この電離水素ガス雲は約20万光年もの長さに渡って伸びており、これは我々の銀河系と大マゼラン星雲との距離に匹敵します。また、その細さ (約6000光年) も大きな特徴で、このような細長い構造を持つ電離水素ガス雲が発見されたのは世界で初めてのことです。

 銀河に付随する細く伸びた構造としては、活動銀河核から噴き出したジェットがよく知られています (注2)。しかし、今回の銀河は活動銀河核を持っておらず、通常ジェットに付随して観測されるX線や電波も検出されていません。このため、今回発見された構造は全く別のメカニズムでつくられたものと考えられます。

 そのメカニズムは今のところよくわかっていませんが、この銀河では3億年ほど前までは銀河全体で活発に星生成を行っていた (現在は停止している) こと、またこの銀河が銀河団に属することが関係していると研究グループは考えています。水素の電離輝線の観測が進むと、このような興味深い構造が他にも発見されることが期待されます。

 本成果は、2007年4月20日付の Astrophysical Journal 誌に発表される予定です。

(注1) 水素の大部分が電離 (イオン化) した状態にあるガス雲からは、電離していない中性の水素ガスが特定の波長の光を放射する輝線として観測されることが知られています。今回はその特徴を利用した観測を行いました。

(注2) 銀河の中心には巨大ブラックホールが存在し、そこに物質が落ちる際に激しくエネルギーを放出する場合があります。これは活動銀河核とよばれ、強いX線及び電波の放射や、ジェットとよばれる特定の方向への激しい物質の放出を伴うことが知られています。

参照:

2007年3月6日           国立天文台・広報室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)