国立天文台と筑波大学の研究者を中心とするチームが、近傍渦巻銀河の分子ガスに関する、世界最大のデータベースを完成させました。
銀河の進化を理解するためには、銀河内のガスを詳しく調べ、銀河での星形成がどのように進むのかを解明することが不可欠です。渦巻銀河には分子ガスが多量に存在し、現在でも星が誕生しているので、格好の観測対象です。ただし、周りの環境や内部の構造は多様なので、多くの渦巻銀河の性質を比較しなければ、一般的な性質を導くことはできません。そのため様々な種類の銀河を観測し、分子ガスが銀河の中でどのように分布しているのかを調べたアーカイブデータが望まれていました。しかし、銀河の分子ガスが出す電波は微弱なため、観測には非常に長い時間がかかります。そのため、分子ガスの分布やその運動が詳細に調べられていたのは、地球に比較的近く電波の強い数個だけでした。そこで開発されたのが、従来の25倍の効率で観測できるマルチビーム受信機BEARS (注1) です。これを野辺山宇宙電波観測所の45メートル電波望遠鏡に搭載することによって、世界最高の感度・角分解能 (約15秒角、注2) と、広い領域を効率よく観測する能力を同時に実現することができました。
今回、研究チームは、数年間にわたり、一酸化炭素分子の出す電波を観測するプロジェクトを行い、これまでにない40個の渦巻銀河のデータベースを完成させました。これは、野辺山45メートル電波望遠鏡とBEARSの組み合わせによって、初めて可能となったもので、大口径単一鏡によるものとしては世界最大です。このプロジェクトで観測された渦巻銀河は、地球からの距離がおよそ8000万光年以内にあります。そして、渦巻腕の弱いものと強いもの、渦巻構造の中心に棒状構造を持つものと持たないものなど、様々な種類の渦巻銀河が含まれています。
この観測結果から分子ガスの渦巻構造や棒状構造が鮮やかに分解されているのがわかりました。また、強い棒状構造を持つ銀河ほど分子ガスが中心部 (銀河の中でも活動銀河核や爆発的星形成など特に活動的な領域) へ集中していることや、その影響により銀河間ガスの豊富な銀河団の中には、星間ガスのほとんどが分子ガスになっている銀河があることなどがわかってきました。さらに研究が進めば、渦巻銀河の進化やその銀河が存在する環境からの影響などを調べるための貴重なデータとなるでしょう。
このデータはインターネット上のホームページで世界中の天文学者に公開されています。研究チームでは、このデータベースを利用して今後さらに多くの成果が出るものと期待しています。
注1) BEARS:25-BEam Array Receiver Systemの略。25のビームをもつ世界最大のマルチビーム受信機。一度に天体の25箇所の電波強度を測定できるため、従来の25倍の観測効率をもつ。
注2) 角分解能:どれくらい細かい構造を分解できるかの指標で、天空上の角度で表す。
2007年2月26日 国立天文台・広報室