宇宙の暗黒物質の空間分布を初めて測定 〜“ダークマターの中で銀河が育つ”銀河形成論を観測的に検証〜

 国立天文台すばる望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡による観測、そして国際的な研究チームの連係プレーにより、宇宙空間におけるダークマターの空間分布が世界で初めて明らかになりました。

 1980年代後半、宇宙の中で、たくさんの銀河が泡状の大規模構造を作って分布していることがわかりました。しかしそれは宇宙大規模構造がどうしてできたのか、という大きな謎がもたらされた"発見"だったのです。現在では、銀河や銀河の作る構造は、宇宙初期に生じた密度の小さな揺らぎ (凹凸) が少しずつ成長し、130億年余の時間をかけて進化してゆくと考えられています。しかし、目に見える物質の揺らぎだけでは、構造が成長するまでに時間がかかりすぎます。そこで、目には見えないダークマター (暗黒物質) の密度の揺らぎが大きくなり、その中で銀河の「種」の成長を促すというアイデアが提唱されました。ダークマターの存在は、近傍の銀河や銀河団の観測から知られていましたが、これが宇宙の大規模構造の形成にも重要な役割を果たしていたという考え方です。しかし「目に見えない」ダークマターは、実際の宇宙の中で、どのように分布しているのか、これまではよくわかっていませんでした。

 ハッブル宇宙望遠鏡のトレジャリー (基幹)・プログラムであるCOSMOSプロジェクト (Cosmic Evolution Survey:宇宙進化サーベイ) では、観測的検証を行うために、2平方度の視野の天域を高性能サーベイカメラで撮像観測しました。0.1秒角の分解能で約50万個の銀河の形態を詳細に調べ、「重力レンズ効果」と呼ばれる手法を用いて、視野内のダークマターの分布を調べたのです。目には見えないダークマターも、「質量」は持っています。ある場所に質量を持つ物質がより集中して分布していると、相対論的効果によって背景の天体の像にゆがみ (重力レンズ効果) が生じます。この「ゆがみ」の程度によって、そこにどれだけの質量があるのかを推定できるのです。

 一方、国立天文台すばる望遠鏡では、COSMOSプロジェクトに連携する重点プログラムを採択し、主焦点カメラを用いてCOSMOSフィールドの多色撮像観測を行いました。その結果、解析に用いられた約50万個の銀河の距離を推定することに成功しました。この結果を、ハッブル宇宙望遠鏡の結果と合わせて解析すると、重力レンズ現象を引き起こしているダークマターの距離が推定できます。これにより、ダークマターの3次元的な空間分布を世界で初めて明らかにすることができ、ダークマターもまた、大規模構造を形成していることが明らかになりました。そして、これを銀河の3次元分布と比較した結果、銀河はまさにダークマターの作る大規模構造の中に分布していることがわかったのです。

 このような画期的な研究成果が得られたのは、2平方度という広い視野を、ハッブル宇宙望遠鏡の高性能サーベイカメラで撮像観測したことと、すばる望遠鏡による銀河の距離を決める大規模撮像観測の成功という2つの要素がうまく機能したことによります。今回の研究成果は、2つの偉大な望遠鏡の連携プレーが功を奏して得られたという意味で、新しい時代の観測研究の方向性をも提示したという意義があります。

 この成果は、2007年1月7日の Nature 誌に発表されました。

参照:

2007年 1月 9日             国立天文台・広報室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)