野辺山レインボー干渉計が解き明かす暗黒の宇宙 〜88億年前の怪物銀河で星の材料が大量に見つかった!〜

 国立天文台の伊王野大介研究員、東京大学大学院生の田村陽一氏らの研究グループは、野辺山レインボー干渉計を使って、うしかい座の方向の約88億光年(ビッグバンから約48億年後、現在の宇宙年齢の約35%) 先の宇宙にある MIPS-J1428 という銀河から、世界で初めて一酸化炭素分子ガス (以下、分子ガスと略記) を検出することに成功しました。その分子ガスの量は、私たちが住む天の川銀河に存在する分子ガスの実に30倍にも相当します。一般的に分子ガスは銀河を形作る星々の材料です。また最近の研究から MIPS-J1428 は天の川銀河の1000倍以上のスピードで星を生み出している「怪物銀河」であることがわかっています。したがって、今回の我々の発見は、MIPS-J1428 が星の材料を非常に大量に抱え、活発に星を生み出し急激に成長している若い銀河、いわば「巨大銀河の赤ちゃん」であることを示しています。

 MIPS-J1428 のような非常に大規模な銀河の赤ちゃんは100億年以上昔の宇宙にも数個発見されていました。しかしながら、我々の観測によって、より現在に近い88億年前の宇宙にも分子ガスを大量に抱えた大きな銀河の赤ちゃんが存在していた事実が明らかになりました。どうやら、もっと最近まで銀河の誕生は続いていたようです。実はこの時代は宇宙全体でもっとも星形成が活発だった、いわば宇宙のベビーブームの時代である、という説が有力でした。したがって、今回の我々の発見はこの説をサポートする重要な結果であることはもちろんのこと、私たちが住む天の川銀河の誕生をひも解く手がかりを提供するものです。

 なお、研究グループは世界屈指の集光力をもつレインボー干渉計をもってしても MIPS-J1428 からやってくる非常に微弱な電波を検出するのに6時間かかりました。しかし、ALMA (アルマ;日米欧が協力して南米チリに建設中のアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計のこと)を使えば同じような天体をわずか5秒で観測できるようになります。ALMAが完成する2012年以降には MIPS-J1428 のようなガスと塵をまとった若い銀河が何千個とみつかり、毎日のように大発見が続くでしょう。

なお、この研究論文は日本天文学会欧文誌 (PASJ) Vol.58,No.6 (2006年12月25日発行)に掲載されました。

参照:

 

2006年12月26日             国立天文台・広報室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)