去る11月8日4時48分(日本時)頃、国内のアマチュア天文家らが第22番小惑星カリオペ(Kalliope)とその衛星リヌス(Linus)によるふたご座の9.1等星の恒星食の観測に成功しました。恒星食というのは惑星・小惑星などによって恒星が隠されて見えなくなる現象です。小惑星自体が惑星に比べてかなり小さいため、それによる恒星食が観測されるのはもともと困難ですが、その衛星となるとさらに小さくなるため、小惑星の衛星による恒星食の確実な記録はこれまで例がなく、今回の観測成功は、世界的にも史上初となる快挙です。この事実は、日本のアマチュア天文家による恒星食観測の質の高さを示すものとして、世界からも大きな注目を集めています。
小惑星カリオペによる恒星食が当日に日本で見られるという予報は IOTA(International Occultation Timing Association: 国際掩蔽観測者協会) のEdwin Goffin (ベルギー) により1年以上前に発表されていましたが、同じくIOTAの Steve Preston (アメリカ) や鹿児島県の瀬戸口貴司(せとぐちたかし)さんにより、2006年10月末に最近の観測結果を含めて改良予報が計算され、改めて関東地方から北海道にかけての地域で見られると予報されました。これに加え、現象前日の11月7日になって Jean Lecacheux (フランス) から、パリ天文台の Jerome Berthier による予報として、約350kmの誤差が見込まれるものの、衛星リヌスによる食が、本体による食が見られる場所より若干西側で見られ、時刻も本体より30秒から70秒早く起こる、という情報がもたらされました。これらの情報をもとに、国内では、せんだい宇宙館(鹿児島県薩摩川内市)の早水勉(はやみずつとむ)さんから掩蔽(えんぺい)観測者のネットワーク JOIN(Japan Occultation Information Network) を通じて観測が呼びかけられました。
この呼びかけに応じて、佐藤信(さとうまこと)さん、小石川正弘(こいしかわまさひろ)さん、沖田博文(おきたひろふみ)さん、冨岡啓行(とみおかひろゆき)さん、佐藤光(さとうひかる)さん、八重座明(やえざあきら)さん、内山茂男(うちやましげお)さん、柏倉満(かしわぐらみつる)さんの8名が小惑星カリオペによる食を、また、北崎勝彦(きたざきかつひこ)さん、片山栄作(かたやまえいさく)さん、柳澤正久(やなぎさわまさひさ)さん、田中隆雄(たなかたかお)さん、大川拓也(おおかわたくや)さん、鈴木智(すずきさとし)さん、相川礼仁(あいかわれいじん)さん、佐藤幹哉(さとうみきや)さんの8名が衛星リヌスによる食を見事に捉えました(注1)。これらの他に食が起こらなかったという観測をされた方も多数おられ、それらの観測も小惑星と衛星の形や大きさを決める上で貴重なものになりました。
この観測の結果、小惑星カリオペと衛星リヌスの形や大きさと、それらの相互の位置関係が詳しく求められました。これらの結果は、衛星の軌道や小惑星と衛星の密度を推定するための貴重なデータになります。
小惑星の衛星による恒星食としては、1978年6月の第532番小惑星ヘルクリナ(Herculina)による食や、1980年10月の第216番小惑星クレオパトラ(Kleopatra)による食の際などに衛星によると思われる減光が観測されたことがありましたが、小惑星の衛星による恒星食の確実な記録としては、今回の観測が世界でも初めてのものとなります。
注1:共同観測者がいる場合は代表者のお名前のみを記しました。ご了承ください。
2006年11月13日 国立天文台・広報室