「最も遠い銀河の世界記録を更新」−宇宙史の暗黒時代をとらえ始めたすばる望遠鏡−

 国立天文台の家正則(いえまさのり)教授、東京大学の太田一陽(おおたかずあき)大学院生、国立天文台の柏川伸成(かしかわのぶなり)主任研究員を中心とする研究グループは、これまでの記録を更新する、宇宙で最も遠い銀河の発見に成功しました。この観測は、満月の大きさに匹敵する広い視野を一度に撮像できるすばる望遠鏡の主焦点カメラによる撮像観測と、微光天体分光撮像装置を駆使して行われました。

 研究チームは赤方偏移が7.0の銀河を撮影するため、地球の大気の発光が弱い波長973ナノメ−トル前後の光だけを透過する特殊なフィルターを新たに開発しました。このフィルターを用いて撮影された41,533個の天体の中から、他のより青いフィルターでは写っていない天体を2つ発見し、確認のための分光観測をしました。すると、そのうちの明るいほうの天体は赤方偏移 6.964、距離にして約128億8千万光年、つまり、ビッグバンから約7億8千万年後の時代の銀河であることが確認されました。この銀河の発見により、これまでより約6000万年宇宙史を遡ったことになり、ビッグバンから約7億8千万年後には確実に銀河ができていたことが証明されました。

 約137億年前にビッグバンとともに始まった宇宙は、爆発から約38万年後には約3千度にまで冷えて中性水素原子が主となりました。その後数億年かけて、密度の濃い部分が収縮して最初の銀河や星が生まれたと考えられています。最初の銀河が生まれ、その中で明るい星々が輝きだすと星の紫外光で周辺の宇宙は再び暖められ、宇宙空間に漂う中性水素原子が電離されるようになるはずです。このように初代の銀河によって、宇宙が暖められ再び電離した現象を「宇宙の再電離」といいます。

 生まれて間もない銀河は、銀河内の電離した水素ガスが冷えてゆく過程でライマンα輝線(波長121.56ナノメートル)を放射します。これまですばる望遠鏡グループでは、かみのけ座の一角に狙いを定め、その方向の宇宙を徹底的に奥深くまで観測し、ライマンα輝線を放つ若い銀河の探査観測を進めてきました。今回の観測はこのライマンα輝線が赤方偏移して波長が約973ナノメートルで光っている天体をねらい打ちしたものでした。

 本研究でもう一つの大事な成果は、今回の観測で赤方偏移7.0の時代の銀河がたった1個(または2個)しか見つからなかったということです。同じ領域で観測された赤方偏移6.6の時代の結果から推定すると、赤方偏移7.0の時代にはもっとたくさんの銀河が見つかることが期待されました。しかし、実際には1個か2個の銀河しか検出できなかったことから、この時代の宇宙について二つの可能性が考えられます。一つめは、宇宙の再電離が赤方偏移7.0の時代にはまだ完了していなかったため、中性水素ガスが光を吸収して弱めているという可能性、もう一つは、赤方偏移7.0の時代はまだ銀河の成長過程であり、十分に明るい銀河の数が少なかったという可能性です。いずれにせよ、すばる望遠鏡がこれまで観測の届かなかった宇宙史の暗黒時代にメスを入れ始めたことになり、今後の研究が期待されます。

 本研究の成果は2006年9月14日発行のNature誌に掲載発表されました。

詳細記事

2006年9月15日            国立天文台・広報室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)