超新星爆発の光による重元素の生成メカニズムを解明

 いまだ完全に解決されていない問題の一つに、「太陽系や地球を構成する物質が宇宙のどのような天体でどのように生成されたか?」というものがあります。水素、ヘリウム等の元素はビックバンで生成され、それよりも重い鉄までの元素は恒星内部の核融合反応で生成されたことはよく知られています。また、鉄より重い元素のほとんどは、中性子の捕獲反応で生成されたと考えられています。さらに、鉄より重い重元素の原子核には、r核、s核、p核などがあります。

このうち、r核とs核は恒星の中性子捕獲反応で生成されたことがわかっています。しかし、残りの35種のp核の起源は謎のままです。p核の元素は存在量は少ないのですが、私達の生活に重要な元素である場合も多いのです。例えばインジウムは、液晶ディスプレイや発光ダイオード、太陽電池などに使われている元素です。

 日本原子力研究開発機構の早川岳人(はやかわたけひと)研究副主幹、国立天文台の梶野敏貴(かじのとしたか)助教授、東京大学の野本憲一(のもとけんいち)教授らからなる研究チームは、"p核の起源"という50年以上も前からもたれていた疑問の一部に答えを出しました。この研究チームは2004年に、太陽系に存在する元素の特定の2種類の同位体(p核と、p核より中性子が2個多いs核)の比が、34−80という原子番号の広い領域に亘って一定であるという法則を発見しています。このような関係が成り立っているのは、p核が光核反応によって生成したことを意味しています。もともと存在していたs核に高いエネルギーの光が入射し、中性子が放出される反応が二回続けて発生することで、p核が生成されます。宇宙では、超新星爆発において発生する莫大な光によって光核反応が起こります。しかし、一般に恒星で生成される同位体の量は、恒星の質量等の物理条件によって変化すると考えられています。そのため、観測された結果を説明できるつメカニズムが謎のままだったのです。そこで、今回、研究チームは最新の天体観測に基づく超新星爆発モデルを用いることで、物理状態を様々に変化させて計算を行い、ようやく、そのメカニズムを明らかにしたのです。

 まず、超新星爆発を起こす前の元素組成が異なれば、生成される同位体の量も異なることが予想されます。しかし、計算から次のことが分かりました。超新星爆発を起こすような大質量星では、恒星の進化の過程で中性子の捕獲反応が発生し、恒星の初期組成が異なっていても超新星爆発の時点では重元素の質量分布がほぼ一定になるのです。さらに、超新星爆発のエネルギーによって温度環境が変わり、生成する同位体量が変化することも影響を与えそうですが、爆発エネルギーを変えたモデル計算からは、光核反応が起こる領域での最高温度は一定であることもわかりました。このようにして、超新星の爆発エネルギーや初期組成が異なっていても、生成されるp核が元になるs核の量に比例するという関係が成り立つことが今回の研究の成果です。

 国立天文台では、さらに銀河系の初期に誕生したと考えられている金属量が非常に少ない恒星で、p核同位体を観測することを計画しています。このような観測からは、銀河系の初期にどのような重元素があったのかを明らかにすることができます。銀河系初期の世代の星は、過去に生成された重元素の蓄積がないため単一、もしくは数個の超新星爆発によって生成された重元素の分布を保持していると考えられるからです。研究チームでは、銀河系初期に形成された恒星のインジウムの同位体の測定を提案しています。インジウムを観測する利点は二つあります。まず、奇数同位体が二つしかなく、それぞれp核とs核の同位体です。そして、他のp核元素に比べて、約13倍〜360倍も存在量が多いために、観測しやすいのです。さらに、金属量の低い星から高い星までの元素量を測定すれば、p核同位体に基づいて銀河系の化学進化(銀河のなかでどのように重元素が増加したか)がわかってくるでしょう。このような観測には高分散分光器を搭載した大型望遠鏡が必要です。すばる望遠鏡など最先端の望遠鏡の活躍が期待されます。

 なお、本研究は9月1日付け、アメリカの天文学会誌アストロフィジカル・ジャーナル誌に掲載されています。

参照

日本原子力研究開発機構

2006年9月14日            国立天文台・広報室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)