すばる望遠鏡、127億年前の宇宙に超巨大ブラックホールを発見

宇宙航空研究開発機構の後藤友嗣研究員は、かに座の方向の約127億光年彼方に、活発に物質(ガス)を飲み込んで明るく輝く超巨大ブラックホール(これを「クエーサー」といいます)を発見しました。これは、日本人によって発見されたクエーサーとしては最も遠いもので、世界でも11番目に相当します。また、この方向において、宇宙の再電離が127億年よりも以前に起こったことを明らかにしました。

 宇宙は、今から約137億年前のビッグバンで誕生しました。宇宙で一番多い元素である水素は、最初は、電子と原子核がばらばらに分かれた電離状態にありました。その後の膨張とともに宇宙は冷え続け、ある時期には、電子と原子核が結合した中性の水素の状態になりました。そして、最初に生まれた天体からの紫外線放射により、宇宙の水素は再び電子と原子核に電離されて、現在に至ったと考えられています。この再電離の時期を解き明かすことは、宇宙の歴史を理解するために非常に重要です。

 宇宙の水素が電子と原子核に電離しているのか、中性の水素の状態にあるのかは、天体を分光観測すればわかります。中性水素は、紫外線に強い吸収線(スペクトルのへこみ)を示すのに対して、電離ガスはそれを示さないからです。宇宙の再電離は、120億年以上前に起こったと考えられており、その時期を明らかにするには、120億光年(注1)より遠くの天体を分光観測する必要があります。クエーサーは、紫外線や可視光線で非常に明るいため、約120億光年以上の彼方にあっても、質の高いスペクトルを取ることができます。従って、宇宙の再電離の時期の研究に最適です。

 後藤研究員は、まずスローンデジタルスカイサーベイと呼ばれる観測で見つかった約1億8000万個の天体の中から、独自の赤外線観測により、120億光年より遠くのクエーサーの候補を26個選び出しました。これらの候補天体を、すばる望遠鏡の微光天体分光撮像装置(FOCAS)で分光観測することにより、見事にかに座の方向に約127億年前のクエーサーを発見することに成功したのです。そのスペクトルは、光が中性の水素によって完全には吸収されていないことを示しており、この方向においては、宇宙の再電離が127億年よりも以前に起こったことを明らかにしました。

 再電離は、宇宙全体において一様に生じるわけではなく、場所、方向によって時期が異なると考えられています。従って、その過程を理解するためには、遠くのクエーサーを数多く観測し、様々な方向での宇宙再電離の時期を決定する必要があります。この発見を皮切りに、日本からも次々と遠くのクエーサーが発見され、近い将来、宇宙再電離の様子が詳細に描き出されると期待されます。

(注1) 1光年は、光が1年間に進む距離で、約10兆キロメートルです。例えば、100億光年彼方の天体を観測することは、その天体の100億年昔の姿を見ることに相当します。

参照:

2006年 9月 1日           国立天文台・広報室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)