ガンマ線バーストによって解明された初期宇宙の様子

 京都大学、東京工業大学、国立天文台の研究者からなるチームは、宇宙の遠方で起きる大爆発現象であるガンマ線バーストのすばる望遠鏡による観測データから、初期の宇宙の様子を垣間見ることに成功しました。

 ビッグバン直後の宇宙では、水素原子核と電子がバラバラになっています。これを電離した状態と呼んでいますが、宇宙が膨張するに従って温度が下がるにつれ、原子核と電子が再び結合し、中性の水素原子となっていきました。ところが、現在の宇宙では、再び電離した状態にあることが知られています。この宇宙の「再電離」がいつ、どのように起きたのか、は現代宇宙論の謎の一つです。電離にはエネルギーが必要で、宇宙に最初に現れた天体からのエネルギーが源になったという説もあります。再電離の研究から、宇宙初期の歴史の重要な情報が得られると期待されています。

クエーサーの観測から、誕生後10億年頃が再電離の時代であり、誕生後9億年頃は宇宙は中性なのではないかと言われてきました。しかし、そのあたりになると、従来の方法では正確な測定はできませんでした。

 そこでガンマ線バーストが注目されていました。ガンマ線バーストは、超新星のように、太陽よりずっと重い星が終末に迎える重力崩壊によって引き起こされる宇宙最大の爆発現象です。爆発時は極めて明るく輝くため、非常な遠方すなわち初期の宇宙においても、発生すれば観測可能です。ガンマ線の輝きが地球に到達するまでの間の宇宙空間の様子を、いわば”透かして見る”ことができるわけです。

 問題のガンマ線バーストは、昨年9月4日に発生しました。すばる望遠鏡の観測により、宇宙誕生後9億年という、これまでで最も遠く、宇宙誕生後10億年の壁を初めて破ったガンマ線バーストとなりました(アストロ・トピックス (139))。京都大学の戸谷友則助教授らの研究グループは、このガンマ線バーストから具体的な宇宙初期の情報を引き出すため、詳細なデータ解析と理論的検討を進めました。そして誕生後9億年で、宇宙はすでに電離していることを突きとめたのです。これは今までクエーサーにより情報が得られていた時代をさらに1億年も遡るもので、宇宙初期の天体の形成がクエーサーから示唆されていたよりも早くから進んでいたことを意味します。ガンマ線バーストを利用した初期宇宙の研究の可能性を示す貴重な成果です。

 戸谷助教授は「世界的な激しい競争の中、発見からデータ解析、初期宇宙の情報の導出にいたるまで、すべて純粋に日本のチームによって行われたことで、日本の天文学の存在感を世界に大きくアピールできたと考えている。今後も、さらに多くの遠方のガンマ線バーストを捉えることで、より詳しい宇宙再電離の過程を解明していきたい」と意気込みを語っています。

 この成果は日本天文学会欧文報告6月25日号に掲載される予定です。

参照

2006年5月19日            国立天文台・広報室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)