東京工業大学、京都大学、国立天文台などからなる研究チーム(注1)が、国立天文台岡山天体物理観測所の50センチ反射望遠鏡(通称:岡山MITSuME(三つ目)望遠鏡)(注2)を用いて、120億光年彼方で起こったガンマ(γ)線バーストの残光をとらえることに成功しました(参考文献1)。これは、これまでに距離がわかっているガンマ線バーストとしては6番目に遠いものです。
ガンマ線バーストとは、宇宙の一点から短時間に強力なガンマ線がやってくる現象で、1960年代に核実験査察衛星によって偶然に発見されました。ガンマ線バーストには二種類あり、継続時間が2秒以上のものを長時間バースト、継続時間が2秒以下のものを短時間バーストと呼びます。近年の研究によって、長時間バーストの正体は、太陽の数十倍以上の質量をもつ巨大な星がその一生の最後に起こす大爆発であることがわかってきました。その爆発によってブラックホールが生まれると考えられていますが、爆発の仕組みはまだよくわかっていません。
ガンマ線は大気に吸収されるため、ガンマ線バーストそのものは、人工衛星を用いないと観測できません。しかし、爆発の後に急速に減光するエックス線から可視光、電波にかけての「残光」を残します。この残光は、バースト源の距離、環境、バーストの発生の仕組みなどを調べる重要な手がかりを与えてくれます。
今回、岡山MITSuME望遠鏡がとらえたのは2006年1月15日に発生したGRB060115という長時間バーストの「残光」です。残光はバースト発生から時間が経つにつれて急速に暗くなっていくため、時間が勝負です。岡山MITSuME望遠鏡は、バースト発生後6分という迅速な観測によってこの残光をとらえ、その色を測ることに成功しました。GRB060115について、このような早期に残光を観測できたのは、世界で岡山MITSuME望遠鏡だけです。残光の色の特徴を調べたところ、このバーストが100億光年以上彼方で発生したらしいことが分かりました。岡山MITSuME望遠鏡の発見を受けて、ヨーロッパ南天文台の8メートル望遠鏡VLTで残光の詳しい分光観測が行われ、バーストまでの距離が120億光年(赤方偏移3.53)と正確に求められました(参考文献2)。岡山MITSuME望遠鏡が予想した距離が裏付けられたわけです。
岡山MITSuME望遠鏡は、口径こそ50センチと小さいですが、緑(G)・赤(R)・赤外(I)の三色で同時に撮像できる機能と、広い視野(26分角)をもちます。この特徴を生かして、120億光年という遠い宇宙での大爆発を捉えることに成功したのです。
(注1) 文部科学省科学研究費(学術創生研究費)「ガンマ線バーストの迅速な発見、観測による宇宙形成・進化の研究」(代表:河合誠之(かわいのぶゆき)・東京工業大学教授)による研究チーム。
(注2) 「MITSuME(三つ目)望遠鏡」とは、ガンマ線バースト残光追跡のために国立天文台岡山天体物理観測所と東大宇宙線研明野観測所に設置された50センチ望遠鏡と、岡山天体物理観測所の91センチ望遠鏡の3台を総称してつけた愛称です。3台の望遠鏡が協調して観測するということと、両50センチ望遠鏡にはそれぞれ三色同時撮像機能があることから名付けられました。なお、MITSuMEは、Multicolor Imaging Telescopes for Survey and Monstrous Explosionsの頭文字となっています。
2006年1月26日 国立天文台・広報室