すばる望遠鏡は、アメリカのNASAが進める初の冥王星-エッジワース・カイパーベルト(Edgeworth-Kuiperbelt)天体探査「ニュー・ホライゾンズ(New Horizons)」と共同研究を実施しています。
探査機の打ち上げを間近に控えたミッションの特徴や研究内容についてご紹介しましょう。
宇宙探査機による太陽系内の調査は、これまでにも数多く行われてきました。1960年代以降、アメリカやソビエト連邦(現在のロシア)は、水星、金星、火星、木星、土星、天王星、海王星へ次々と探査機を送り込みました。
日本は小惑星や彗星といった小天体の探査で目覚ましい成果を挙げており、特に小惑星「イトカワ」に接近、観測を行った「はやぶさ」ミッションは記憶に新しいところです。
一方、地球からの平均距離が約60億キロメートルと非常に遠方にある冥王星は、これまで宇宙探査機が接近したことのない唯一の惑星です。NASAは、公募制の太陽系探査プロジェクト「ニューフロンティア・プログラム」の最初のミッションとして、冥王星-エッジワース・カイパーベルト天体探査「ニュー・ホライゾンズ」を選定しました。乗用車ほどの大きさのニュー・ホライゾンズ探査機は撮影カメラをはじめ、天体の大気や表面の成分を測定する分光器など、合計7台の科学観測装置を搭載しています。
探査機は、2006年1月17日にアメリカ・フロリダ州のケープ・カナベラル空軍基地より、アトラスV型ロケットで打ち上げられる予定です。わずか約9時間後に月の軌道を横切り、2007年2月には木星の側を通過、2015年に冥王星と衛星カロンの近傍を秒速14キロメートルで通り過ぎながら観測を行います。その後はさらに遠方へと進み、2016年から2020年にかけて、太陽系外縁部に広がるエッジワース・カイパーベルト天体に接近する計画です。
いまから約50年前に二人の天文学者によって提唱された、惑星に成りきれなかった天体をエッジワース・カイパーベルト天体(Edgeworth-Kuiper Belt Object、略してEKBO)と呼びます。1992年に発見されてから、これまでに約1,000個のEKBOが見つかってきました。大きさが数百キロメートルから1,000キロメートル程度あるEKBOの表面は氷やチリからできていると考えられていますが、地球から行う観測では限界があるため詳しいことはいまだわかっていません。
ところが、ニュー・ホライゾンズ探査機が近くを通ることのできるEKBOは、これまで見つかっていませんでした。ミッション・チーム責任者のアラン・スターンさんは、口径8メートルのすばる望遠鏡と広視野の撮影カメラSuprime-Camが探査機の向かうEKBOを発見できる最も効率のよい組み合わせであることに注目、唐牛宏(かろうじひろし)・ハワイ観測所長へニュー・ホライゾンズ・ミッションとの共同研究の提案を行いました。
ハワイ観測所では所長の管理する観測時間を使い、2004年4月からこれまでに約20晩に渡ってニュー・ホライゾンス・ミッションのためのEKBO探しを実施しています。観測は順調に進み、全容量が数テラバイトにもおよぶ膨大なデータを取得しました。現在は、日本の研究者チーム(*)とニュー・ホライゾンズの研究者チームがデータ解析中です。すばるの観測データから探査機が接近できるEKBOが発見されれば、その天体へ向かうよう冥王星通過後に探査機の軌道修正が行われることでしょう。
冥王星とEKBOは人類がいまだ間近で目にしていないと同時に、太陽系が誕生したころの状態を保存していると考えられている天体です。これらの天体へ探査機が接近し詳細な観測を行うことによって、惑星の形成や太陽系の歴史に関する新たな知見が得られると研究者たちは期待しています。
すばる望遠鏡で観測を行い、ニュー・ホライゾンズ・チームの科学会議にも出席するハワイ観測所の布施哲治(ふせてつはる)さんは『すばるが探し出す天体に探査機が到着するのは、いまの子供たちが大人になるころ。打ち上げに参加し、10年間以上も太陽系を飛行する探査機の旅立ちを見届けたい』と語っています。
2006年1月13日 国立天文台・広報室