国立天文台、プリンストン大学、東京大学などの研究者からなる研究グループは、宇宙初期の物質分布のむらである密度ゆらぎが、宇宙で観測されている磁場の有力な起源である可能性を明らかにしました。
宇宙では星・銀河・銀河団など様々なスケールで磁場の存在が観測されています。これらの磁場は宇宙での構造の形成や宇宙線の加速、天体からのX線やガンマ(γ)線の放射などにおいて重要な役割を果たしています。しかし、「宇宙磁場がいつ・どのようにして生成されたのか」という問題はこれまで宇宙の大きな謎の一つでした。
研究グループが磁場の起源として着目したのは宇宙初期に存在した密度ゆらぎです。ビッグバン直後の宇宙は高温・高圧の状態で、陽子・電子・光子がバラバラに存在しており、それらの粒子の分布にはわずかな密度のゆらぎ(むら)がありました。その中では、電子は密度ゆらぎによって生じる光子の流れにひきずられますが、電子よりずっと重い陽子はあまりひきずられません。そのため、電子と陽子の運動の間にはずれ、すなわち電流が生じ、その周りにはアンペール-マクスウェルの法則により磁場が発生します。
研究グループはこの磁場の生成メカニズムの理論的な定式化を行い、密度ゆらぎ中での電子・陽子・光子の運動をコンピュータを用いて計算することにより、生成される磁場の強さを精密に予測することに初めて成功しました。そして、密度ゆらぎによって生じる磁場の強さが、宇宙磁場の有力な起源として十分な強さであることを明らかにしました。
これまでにも宇宙磁場の生成に関してはいくつかの機構が提案されてきましたが、それらの機構には様々な問題点が指摘され、不確定要素も大きいものでした。しかし、今回発見された機構は、ゆらぎの精密な観測データと理論に基づいており、不確定性がほとんどありません。宇宙初期の光子の密度ゆらぎは、宇宙マイクロ波背景放射として観測衛星「WMAP」によって詳細に観測されています。この観測事実を非常によく説明できる理論として「密度ゆらぎ理論」という理論が確立されています。この理論の自然な帰結として、磁場が必然的に生み出されるのです。
研究グループの理論に基づけば、生成された磁場が、銀河間空間などでは変化することなくそのまま「化石」として残っている可能性があります。そこで、この化石磁場を将来観測することにより、理論の正しさを決定付けることが可能です。さらに、宇宙誕生40万年までの宇宙に関するこれまでにない新しい情報を得ることができる可能性もあります。
この研究成果は2006年1月6日に科学雑誌「Science」のオンライン速報版で公表されました。
2006年1月6日 国立天文台・広報室