もっとも近いブラックホールを持つ連星系、はくちょう座V404のアウトバースト

著者 :大島誠人(兵庫県立大学西はりま天文台)

 X線新星、と聞くとどんな天体を思い浮かべるでしょうか?X線や新星という名前は耳にしたことがあるかたでも、この二つがつながった「X線新 星」となるとなじみがない人も多いかもしれません。

 X線新星は、中性子星またはブラックホールが通常の恒星と近接連星をなしている系で起こる活動現象の一つです。二つの星の間の距離が非常に近い 連星系の常で、恒星の外層は中性子星やブラックホールへ向かって流れ出しており、円盤を介した降着を示しています。これは、矮新星をはじめとする 激変星で起きていることにそっくりですが、主星が白色矮星ではなく中性子星やブラックホールなどより密度の高い天体であるという違いがあります。

 このような円盤での降着現象も激変星の場合と同じく、安定して降着するのではなくときどき急激に物質が降着するフェイズを持つことがあります。 激変星の場合これは矮新星アウトバーストとして観測されます。しかしX線連星の場合、中心天体がより高密度であるために円盤が形成されている半径 の重力ポテンシャルの深さは激変星の場合よりはるかに深くなります。そのため、矮新星の場合と比べてエネルギーの高いX線を主に放出します。その ため、X線新星と呼ばれます。新星と名がついているものの、いわゆる新星爆発とは別物であることにご注意ください。もっとも、このX線の一部は円 盤に再び吸収されて再放射されたり、円盤からシンクロトロン放射が放射されたりすることにより、可視光でも明るくなります。このようなブラック ホール連星における大きな変動がとらえられたケースとして、いて座V4641があります(VSOLJニュース 90)が、後述のとおり今回明るくなったはくちょう座V404でもやはり同様と思われる変動が報告されています。

 はくちょう座V404は1938年に発見された古い新星です。その後しばらくの間はあまり注目を集めることもなかった天体ですが、1989年に X線衛星「ぎんが」がX線で明るくなっているところを発見し、この天体の増光が新星爆発ではなくX線新星のアウトバーストであることを確認しまし た。このアウトバーストの際に可視光でも再び12等まで明るくなり、各地で観測がなされました。その後の研究で、この系の持つ高密度天体は中性子 星ではなくブラックホールらしいことがわかり、ブラックホール連星としても知られるようになりました。現在のところ、太陽系からもっとも近いとこ ろにあるブラックホールだと考えられています。

 X線新星であることが明らかになったあとに過去に撮影されたプレートの捜索がなされ、さらに数回のアウトバーストが起きたことが確認されてお り、突発的天体のモニター観測をしている観測者によって次のアウトバーストが待たれていたものです。

 今回のアウトバーストは、6月15日にX線衛星のSwiftによってV404 Cygの位置にX線で明るくなっている天体があると報告されたことに始まります。これを受けたアテネ国立大学のKosmas Gazeas氏らによって可視光でのフォローアップ観測がなされ、12.65等(R等級)まで明るくなっていることが明らかにされています。、このフォ ローアップ観測の終了時には15.43等(R等級)まで暗くなっていましたが、その後ベルギーのE. Muyllaert氏によって6月16.1668日に、16.18等(CCDノンフィルター)で見えているとの報告がされました。これを受けて、フランス のD. Barrett氏が追観測を行い、13.1等(V等級)とさらに明るくなっていることを報告しました。Muyllaert氏の観測は一旦暗くなったところ をとらえたものだったようです。

 その後この天体はさらに明るくなり、眼視等級でときに11等台に達することもあるようです。やや赤い色をしているため、CCDノンフィルターや R等級などではさらに明るい数字が報告されています。また、短いタイムスケールで大きな変動を示す天体なため、特にアウトバースト直後は1~2時 間で3等級ほど明るさを変化させることもありタイミングが悪いと16等くらいまで暗くなってしまっていることもありましたが、アウトバーストから 数日が経過しこのような大きな変動はすこし収まってきたようです。眼視観測などでこの天体を見ようと思う方には、これからがちょうど狙い目といえ るでしょう。

参考文献

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