太陽観測衛星「ひので」による太陽の新しい磁場生成機構の発見

 太陽表面には黒点に代表される強い磁場が存在しています。太陽の磁場がどのようなメカニズムで生成されるかはまだほとんど分かっておらず、天文学の重要な研究テーマの一つとなっています。また、太陽の磁場は太陽フレアや地磁気擾乱を引き起こすなど、我々の日常生活にも大きな影響を与えているため、その研究はこの観点からも重要です。

 国立天文台を含む日米欧国際研究チームは、太陽観測衛星「ひので」に搭載された可視光・磁場望遠鏡による観測から、これまで知られていたものと異なる性質を持つ磁場を発見し、「短寿命水平磁場」と名付けました。これは次のような、黒点の磁場とは全く異なる特徴をもちます。

 a.非常に微細。黒点の 30分の1から100分の1の大きさ (1000キロメートル)。
 b.短寿命。一般的な黒点の寿命が6日から2カ月程度なのに対して平均4分。
 c.磁場の方向が太陽表面に対して水平方向を向いている (黒点は、太陽内
  部から外部に伸びる垂直な磁場の断面に対応します)。
 d.太陽全面に大量に存在し、太陽表面を覆いつくしている (黒点は活動領
  域帯と呼ばれる、太陽中緯度から赤道付近にしか存在しません)。

 さらに、研究チームはこの短寿命水平磁場が太陽全面にわたって同じように出現し、普遍的な性質を持っていることを発見しました。これは、短寿命水平磁場の起源が、「ローカルダイナモ」と呼ばれる、太陽表面付近での対流に起因する新しい磁場の生成機構であることを示唆しています (黒点は、太陽の差動回転によって太陽全体で磁場を引き伸ばすことにより生成されており、その磁場生成機構はグローバルダイナモと呼ばれています)。また、この太陽全面に存在する短寿命水平磁場の総磁気エネルギーは非常に大きく、彩層やコロナの加熱に必要なエネルギーに匹敵することも明らかとなりました。

 これらの発見は、世界最高の解像度と安定した磁場観測精度をもつ「ひので」だからこそ為し得た成果です。

 この研究で明らかになった短寿命水平磁場が持つエネルギーは、太陽の全磁気エネルギーのかなりの部分を占めると考えられます。研究チームは、今回発見された短寿命水平磁場が、彩層や太陽コロナを加熱したり、太陽風を加速したりするためのエネルギー源になっているのではないかと考え、活発な研究を開始しています。

参照:

2009年4月10日             国立天文台・広報室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)