すばる望遠鏡、矮小不規則銀河「しし座A」の隠された構造を明らかに

国立天文台の有本信雄教授とリトアニア物理学研究所のヴラダス・ヴァンセヴィシウス教授が率いる研究チームは、すばる望遠鏡を用いて矮小不規則銀河「しし座A」内の星の分布を調べ、この銀河はこれまで知られていたよりはるかに大きく広がっており、しかも外縁部にはっきりとした境界をもっているという新たな構造を明らかにしました。この発見は、極めて質量の小さな銀河にも複雑な構造が形成されることを示しており、銀河進化理論が解決すべき新たな問題を提示するものです。

宇宙初期から現在に至るまでの銀河の形成、およびその進化を明らかにすることは、天文学の最も大きな課題のひとつです。現在標準となっている宇宙モデルでは、宇宙初期の密度揺らぎからまず小さな天体(銀河の種)が生まれ、それが衝突・合体を繰り返すことによって、大きな銀河が形成されると考えています。矮小不規則銀河は、宇宙で最も数多く存在している銀河で、誕生から何十億年ものあいだ変わらずにその性質を保持していると考えられています。これらは、より大きな銀河が衝突・合体によって生み出される際の種になる銀河ではないかとみられ、研究者たちの関心を集めています。

研究チームは、「しし座A(Leo A)」 とよばれる矮小不規則銀河に注目しました。この銀河は非常に質量が小さく(我々の銀河系のわずか1万分の1)、他の銀河から孤立して存在しており、極めて大量のガスを保持しているといった特徴があります。これはこの銀河が他の銀河の干渉を受けずに進化してきたことを示唆しており、天の川銀河のような巨大な円盤銀河とは対照的に、極めて単純な構造をしているとこれまで考えられてきました。

これまで知られていたしし座Aの見かけの大きさは、7分角×5分角です。すばる望遠鏡の主焦点カメラ (Suprime-Cam)は広い視野(34分角x27分角)をもち、しかも暗い星までも映し出すことができるため、この研究に非常に適した観測装置です。研究チームは2001年11月に可視光の3色で観測を行い、この銀河内で赤色巨星がどのように分布しているか調査しました。しし座Aがすっぽりと納まる楕円(長軸半径12分角、短軸半径7分角)の内側が詳細に調査され、全部で1394個の赤色巨星が検出されました。その分布から、これまで半径3.5分角程度とみられていた円盤成分は、実はずっと大きく5.5分角まで延びていること、さらにその外側、7.5分角までにも赤色巨星は分布していることが明らかになりました。この領域は、赤色巨星の個数分布の変化が緩やかで、円盤成分とは異なるハロー構造であると考えられます。このようなハロー構造が矮小不規則銀河で見つかったのは初めてのことです。そして、銀河の中心から8分角のところで赤色巨星の分布が急激に減少しており、このハローは、はっきりとした境界をもって途切れているといえます。矮小不規則銀河がハローを持っているかどうかは、これまでずっと不明でしたが、研究チームはすばる望遠鏡の特性を生かして発見の一番乗りを果たしたのです。

今回の結果は、宇宙初期の冷たい暗黒物質の密度ゆらぎから直接形成されると考えられてきた極めて小質量の銀河でさえ、複雑な形成の歴史をたどってきたことを示唆しており、現代の銀河進化シナリオに疑問を投げかけるものです。有本教授とヴァンセヴィシウス教授は、しし座Aが銀河の形成と進化の過程を理解するための「ロゼッタストーン」であると注目しています。

本成果は、米国アストロフィジカル・ジャーナル誌レター2004年8月20日号に掲載されます。

参照

2004年8月6日 国立天文台・広報普及室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)