月周回衛星「かぐや」の重力異常図がもたらす新しい知見

 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) が打ち上げた月周回衛星「かぐや (SELENE) 」と2つの子衛星「おきな」と「おうな」は、昨年12月より本格的な月探査を開始し、搭載された14の観測装置による観測を続けています。

 このたび、「かぐや」の主衛星とリレー衛星「おきな」に搭載された中継器を用いて実施した4ウェイドップラー観測のデータを、国立天文台、九州大学、JAXAが解析した結果、月の表側と裏側の重力異常について新しい知見が得られました。

 4ウェイドップラーとは、主衛星が月の裏側にいる間に、「おきな」が長野県佐久市にあるJAXA臼田宇宙空間観測所 (以下、臼田局) からのドップラー信号を主衛星に中継し、さらに、この信号を「おきな」経由で臼田局が受信し、ドップラー周波数を計測するものです。この信号を詳しく解析することにより、月の裏側の重力分布を調べることができ、月の裏側の局所的な重力分布を求めることができます。

 月の裏側の重力異常 (注1) はこれまでほとんどわかっていませんでした。たとえば、月の裏側にあるアポロ盆地について、従来の月重力場モデル(LP165P) (注2) による重力異常図では、重力異常のようすがぼんやりとしか描かれていませんでした。それが、今回の「かぐや」の観測から得られた重力異常図では、負の重力異常が明瞭にとらえられたのです。

 今回、月の裏側の盆地では、このような負の重力異常がたくさん発見されており、そのいくつかは重力異常の分布が同心円状の構造をしていることが明らかになりました。一方で、月の表側の盆地では、晴れの海のように一様な正の重力異常の分布がみられます。このように、月の表側と裏側ではっきりとした重力異常分布の差が表れたことは大きな発見で、地下の構造や形成の歴史が異なっていたことを表しています。

 観測データが増えれば、重力異常図をもっと多くの地域でより正確に、表側と裏側の違いを含めて描くことができるようになります。また、リレー衛星「おきな」とVRAD衛星「おうな」の2つの子衛星に搭載されているVLBI電波源を使った観測で得られる重力場データを組み合わせれば、月の表側と裏側の境界付近の重力異常がより正確にわかるようになります。さらに、レーザ高度計による月全球の地形の情報を合わせることによって、地殻の厚さの変化や堅さなど、月の内部構造についてさらに多くの情報を得ることができると期待されます。

 「かぐや」がもたらす最新の観測データは、月の起源と進化の研究に大切な役割を果たすと考えられています。また、高精度の月重力場情報は、将来の月探査ミッションの発展にも寄与すると期待されています。

注1:重力値と平均重力の差。正の重力異常は地形の高まりや地下に重い物質が存在することを示す。反対に、負の重力異常は地形のくぼみや地下に軽い物質が存在することを示す。

注2:NASAのコノプリフ博士らによって2001年に発表された月の重力場の地図。ルナ・オービターやアポロから、最新のルナ・プロスペクタに至る米国の月探査機が取得したデータを総合的に解析した結果から得られた。

参照:

2008年4月17日           国立天文台・広報室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)