「惑星」の定義の原案、公開へ

 8月14日から2週間の日程で、国際天文学連合総会がチェコの首都プラハで始まりました。3年に一度開催される総会は、今回が26回目を迎えます。今回の総会での注目は、なんといっても「惑星」の定義が決議されるかどうかでしょう。

 これまで「惑星」の厳密な定義はありませんでした。19世紀初めから、火星と木星の間に多くの天体が見つかってきましたが、それらは水星よりもかなり小さく、小惑星と呼ばれるようになりました。惑星と、他の大部分の小惑星や彗星などの天体との間には、大きな差があり、特に問題は生じなかったのです。

 しかし、最近の観測技術の進歩は、状況を大きく変えつつあります。1930年に発見された冥王星は、当初は地球ほどの大きな惑星と思われていたのですが、観測が進むにつれ、その推定直径値がどんどん小さくなっていき、ついには水星よりも小さいことがわかってきました。さらに、1992年以降、冥王星が存在する領域に、同じような軌道を持つ小天体がどんどん見つかってきました。これらはエッジワース・カイパーベルト天体、あるいはトランス・ネプチュニアン天体と呼ばれています。2005年には冥王星よりも大きな直径を持つ天体 2003UB313 が発見され、第十惑星か、と話題になったのはご存じの通りです(国立天文台 アストロ・トピックス (126))。別な言い方をすれば、太陽系の新しい姿が明らかになるにつれ、惑星と小惑星の間が埋まってきてしまった、ともいえるでしょう。

 そこで国際天文学連合では、惑星の定義を天文学的に定めるべく、これまで慎重に議論をすすめてきました。そして、8月16日、総会参加の天文学者に「惑星」の定義の原案が下記のように示されました。(一部、日本語訳が定まっていないため、英語表記としています。)

(1) 惑星とは、(a)十分な質量を持つために自己重力が固体としての力よりも勝る結果、重力平衡(ほとんど球状)の形を持ち、(b)恒星の周りを回る天体で、恒星でも、また衛星でもないものとする。
(2) 黄道面上で、ほぼ円軌道を持つ、1900年以前に発見された8つの Classical Planets と、それ以外の太陽系の天体を区別する。後者は、すべて水星より小さい。また、セレスは(1)の定義から惑星であるが、歴史的理由により、他の Classical Planets と区別するため、 Dwarf Planet と呼ぶことを推奨する。
(3) 冥王星や、最近発見されたひとつまたは複数のトランス・ネプチュニアン天体は、(1)の定義から、惑星である。Classical Planets と対比して、これらは典型的に大きく傾いた軌道傾斜と歪んだ楕円軌道を持ち、軌道周期は200年を超えている。われわれは、冥王星が典型例となる、これらの天体群を、新らしいカテゴリーとして、Plutons と呼ぶ。
(4) 太陽をまわる他のすべての天体は、まとめて Small Solar System Bodiesと呼ぶこととする。

 重力平衡形状となるのは、地球の質量の約一万分の一が目安です。小惑星セレスは惑星に昇格し、他の大きめの小惑星も、今後、観測が進み、重力平衡形状であることがわかれば、惑星に昇格するでしょう。また、衛星は惑星のまわりをまわる天体ですが、その共通重心が惑星の内部にあるものを指します。冥王星の衛星といわれてきたカロンの場合、共通重心が冥王星の外にありますから、どちらも惑星、つまり二重惑星となるわけです。ただし、どちらも「Pluton」です。これにより、太陽系には現在、12の惑星(水星、金星、地球、火星、セレス、木星、土星、天王星、海王星、冥王星、カロン、2003UB313)があり、このうち Classical Planets は8つ、 Plutons が3つということになります。

 もちろん、現段階では、これはあくまで原案です。2週間の総会の最中に、何度か議論が行われた後、必要に応じて改訂された最終案が24日朝に再度、提示され、その日の夕方の全体会議で決議される予定となっています。実際に、今回の会議でどのような案となって承認されるかどうかは、まだ予断を許しません。

参照

2006年8月16日            国立天文台・広報室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)