ハワイ観測所が企画してきた天文学の教育普及イベントの中でも、2005年8月に実施した「すばるマカリィ・スクール」は特別なプログラムといえます。天文学者でも利用するのが難しいすばる望遠鏡を高校生が自分たちで決めた研究テーマの観測を行える公募型プログラム──それが「すばるマカリィ・スクール」です。マカリィ (Makali`i) はハワイ語で、プレアデス星団 (日本語名「すばる」)を意味します。
研究テーマの募集期間が1ヶ月半と短かったにもかかわらず、全国 27の高校、高等専門学校から応募ありました。厳正な審議の結果、第一次関門の書類審査を通過したのは成蹊高等学校、埼玉県立春日部女子高等学校、長野工業高等専門学校、埼玉県立越谷北高等学校、広島県立広島国泰寺高等学校の5校です。
選ばれた 5校の生徒・学生たちは、第二関門の公開面接審査を国立天文台三鷹キャンパスで2005年6月10日に受けました。持ち時間の中で、普段の活動やすばる望遠鏡で観測するテーマや意義、可視光カメラの FOCAS による観測方法などを発表しました。面接後の審査会により、最終的に成蹊高校と長野高専の2校が8月にすばる望遠鏡を使って観測を行うことになりました。
成蹊高校・天文気象部の研究テーマは「すばる望遠鏡を用いた系外惑星探査」です。すでに、部の小型望遠鏡で HD209458 のトランジット観測に成功しているほどの実力を持っています。
一方の長野高専天文部は、「水素輝線による銀河の相互作用の観測」が研究テーマです。Hαフィルターを使って複数の銀河が寄り添う銀河団を観測し、相互作用により取り込まれたり吹き出したりする水素ガスを調べます。
2005年8月8日にハワイに到着したのは、成蹊高校の生徒4名、先生1名と、長野高専の学生3名、先生1名の合計9名です。まずハワイ観測所ヒロオフィスを訪問、施設の見学をはじめ、観測所で研究する大学院生やハワイ大学に留学する大学生らによる講演会に参加しました。
すばるがあるマウナケア山頂は標高が 4000メートルを超える高山のため、望遠鏡を利用する人は観測の前日から標高2800メートルのハレポハク中間宿泊施設に泊まり 高地順応を行います。2校の生徒・学生と先生は、9日の昼間にマウナケア山頂へ上がり、すばる望遠鏡の見学後、ハレポハク施設まで下山しました。実は成蹊高校が行う観測の現象は本番の8月10日ではなく前日の9日であることがわかりましたので、夕食後に再び山頂に上がり観測を実施しています。
8月10日の当日は、まず長野高専、続いて成蹊高校が観測を行いました。その様子は、WIDE プロジェクトにより臨時に設置された高速インターネット回線を通して、東京の科学技術館に生中継されました。会場に詰めかけた友人たちに、両校の生徒・学生たちは観測の説明やマウナケアにいる感想を述べました。
成蹊高校と長野高専の両校は天文学者たちにまじり、2006年3月に行われた日本天文学会において「すばるマカリィ・スクール」の観測成果を発表しています。すばる望遠鏡での観測およびインターネット中継を担当したハワイ観測所の布施哲治さんも「プロ顔負けの奮闘振りに驚きです」と話しています。下記のリンクより、2校の活躍をご覧ください。
2006年3月28日 国立天文台・広報室