スペースVLBI(超長基線干渉計)を世界最初に実現したVSOP(VLBI Space Observatory Programme)チームが、今年のIAA(国際宇宙航空学会: International Academy of Astronautics)によるチーム栄誉賞(Laurels forTeam Achievement Award)を受賞します。授賞式は10月16日から福岡で開催される、第56回 国際宇宙会議の初日に行なわれる予定です。
電波による天文観測は、波長が長いために空間分解能(視力に相当)が良くありません。VLBIという手法は、それを飛躍的に向上させる電波望遠鏡です。VSOPは電波天文学者の長年の夢であったスペースVLBI観測を実現し成功させました。VSOPチーム全体を代表して、中心的役割を果たして来た宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部(JAXA/ISAS)の平林久(ひらばやしひさし)教授、廣澤春任(ひろさわはるとう)名誉教授、村田泰宏(むらたやすひろ)助教授はじめ、国立天文台(NAOJ)からは、井上允(いのうえまこと)、川口則幸(かわぐちのりゆき)、小林秀行(こばやしひでゆき)各教授ら、また、折井武(おりいたけし)氏(NEC東芝スペースシステム(NTS))、三好一雄(みよしかずお)氏(三菱電機(MELCO))、および外国から、P.Dewdney(P.ディユードニー; カナダドミニオン電波天文台(DRAO))、E. Fomalont(E.フォマロン; 米国立電波天文台(NRAO))、L. Gurvits(L.グルビッツ;オランダ欧州VLBI連合研究所(JIVE))、D. Jauncey(D.ジョンシー; オーストラリア連邦科学工業研究機関(CSIRO))、R. Preston(R.プレストン; 米国航空宇宙局 ジェット推進研究所(NASA/JPL))、J. Romney(J.ロムニー; 米国立電波天文台(NRAO))、J. Smith(J.スミス; 米国航空宇宙局ジェット推進研究所(NASA/JPL))各氏らのメンバーが受賞しました。
VSOPは国立天文台が当時の宇宙科学研究所と協力して1997年2月12日に打上げられた工学試験衛星「はるか」を中心としたミッションです。これは世界14か国の25台の電波望遠鏡、日本、米国、スペイン、オーストラリアの5カ所に配備された衛星追尾局、国立天文台三鷹、米国、カナダの3局の相関局、および宇宙科学研究本部と米国の衛星軌道決定チーム、等々の緊密な国際協力とチームワークによって実現したものです。国立天文台三鷹では相関器を建設・運用し、その相関器によって「はるか」と地上望遠鏡との世界初の干渉の検出に成功しました。
衛星「はるか」は780回ものVSOP観測を行ないました。超高解像度の特長を生かし、活動銀河中心核(AGN)の中心にある超巨大ブラックホールから噴き出す、相対論的なジェットの複雑な内部構造や、ブラックホールの周辺を取巻く高密度のガスの存在を明らかにしてきたほか、ジェットの先に広がるガス(ローブと呼ばれる)の”動き”を初めて捉えるなど、宇宙の中で最もコンパクトで高い活動性を示す天体の解明に大きく貢献しています。しかし相対論的なジェットがどのようにして生成されるのか、また巨大ブラックホールの周囲で高速で回転している降着円盤についてなど、多くの研究者が興味を持っている問題はまだ残されています。これらの問題は、VSOPの能力をさらに発展させた次期スペースVLBI計画(VSOP-2計画)によって、詳しく解明されるのではないか、と期待されています。
2005年10月14日 国立天文台・広報室