国立天文台・東京大学・神戸大学・茨城大学・宇宙航空研究開発機構からなる研究グループは、すばる望遠鏡用赤外線冷却コロナグラフCIAO(チャオ)と補償光学装置を用いて、ぎょしゃ座AB星(距離470光年)と呼ばれる年齢約400万年の星を観測したところ、そのまわりの円盤が中心の星からの赤外線を反射して輝いている様子をとらえることに成功しました。
若い星の周りに円盤が形成されることはよく知られた現象で、そのなかで惑星が誕生すると考えられていますが、今回明らかになったのは、この天体の円盤は単純に平らなものではなく、銀河で見られるようなうずまきの形をしているということです。
この観測結果は、星のまわりに形成される円盤はのっぺりとした単純な構造をしているというこれまでの概念を取り去り、円盤の形成と進化、ひいては惑星形成の研究に新たな視点を加えるものです。この研究成果は、米国アストロフィジカルジャーナル誌のレター(4月10日号:605巻、L53)に掲載されました。
生まれて百万年程度の若い星のまわりには、宇宙の塵とガスからなる円盤状の構造があることが知られています。これは、星が分子雲から生まれるときの副産物とも言えるもので、まさにそこから地球や木星のような惑星が生まれるため、原始惑星系円盤と呼ばれています。この構造は、大きさが太陽系のサイズ程度しかないため、数百光年の距離にある星・惑星形成領域について観測するのは非常に困難なことでした。しかし、惑星がどのようにして生まれるのかの理解は、原始惑星系円盤の詳細な観測なくしては進みません。
今回、国立天文台を中心とする研究チームは、すばる望遠鏡とCIAOと補償光学の組み合わせで、うずまき状構造を初めて捉えることに成功しました.コロナグラフとは,明るい中心星を隠し、その周辺の暗い天体や構造を探ることが出来る観測装置です。大気による星像の乱れを時々刻々と補正する補償光学と高機能冷却コロナグラフCIAOとの組み合わせは、現在のところ、世界の8メートルクラス望遠鏡でもすばる望遠鏡だけで稼動しています。
発見されたうずまきの腕は必ずしも一筆書きでたどることができず、非常に複雑な構造をもっています。円盤の明るさの分布と、過去の電波観測から得られていた円盤の回転方向とを考え合わせると、銀河と同じように、腕を引きずって回転するようなうずまき円盤であることがわかります。
しかし、今回の観測からは、ぎょしゃ座AB星に惑星が形成されるまたは惑星が存在する証拠は見つかっていません。もし、惑星が誕生している場合には、うずまき以外の構造(リング状のすきま)が円盤中に現れると考えられます。
このような構造を持つ原始惑星系円盤の発見は、今後の研究の重要なポイントです。さらに、研究グループは、このような惑星系形成の現場の直接観測の延長として、生まれたばかりの惑星やそれより重い褐色矮星(スーパー惑星)の検出を急務としてすばる望遠鏡とコロナグラフで観測を続ける予定です。
2004年4月19日 国立天文台・広報普及室