【転載】国立天文台・天文ニュース(614)
オーストラリアの天文学の中心のひとつである、キャンベラ郊外のストロムロ山天文台が、1月19日正午頃に山火事に襲われ、大きな被害を受けました。この天文台には、国立天文台の超伝導重力計が設置されています。この火事により、観測の中断はおろか、重力計そのものが被害を受けている可能性があり、来週、関係者2名が現地に調査・復旧作業に出かける予定です。
オーストラリアの首都キャンベラ郊外にあるストロムロ山天文台は、正式にはストロムロ山およびサイディング・スプリング天文台と呼ばれる天文台で、オーストラリア国立大学によって運営されています。本部でもあるストロムロ山には、国立天文台の岡山天体物理観測所にある望遠鏡と兄弟ともいえる口径1.88メートル望遠鏡を始め、1868年に設置された歴史的な口径1.3メートルのグレート・メルボルン望遠鏡、人工衛星追跡用レーザー測距装置など多くの望遠鏡・装置群があり、これまで数々の業績を上げてきました。特にグレート・メルボルン望遠鏡は、1993年には、マイクロレンズ現象(重力レンズの一種で、背景の恒星の光が、手前を通過する見えない天体の重力によって一時的に明るくなる現象)を世界で初めて検出した望遠鏡として知られています。また、オーストラリアの天文学の拠点のひとつとして日本との共同研究も盛んで、特に国立天文台では地球の振動を全世界で計測する研究の一環として、南極の昭和基地とともに、このストロムロ山天文台に超伝導重力計を1997年1月に設置し、これまで継続して観測をしてきました。
先週末には、天文台から遠望するほどの距離にあった山火事の火が、折からの風にのって19日にはキャンベラ市街地まで飛び火し、少なくとも2500人が避難を余儀なくされ、400以上の家屋が焼失、4人が死亡しています。天文台でも昼頃に火の手があがり、上記の望遠鏡・装置のほとんど、それに工場や管理棟が焼失しました。特に、工場での組み立てがほとんど終了し、あとは送るだけになっていたハワイ・マウナケア山頂のジェミニ望遠鏡用の近赤外線観測装置も焼けてしまいました。現地からの情報では、幸いにも80名の職員と25名ほどの学生には、けが人はなかったようですが、天文台の被害額は2千万豪ドルから4千万豪ドル相当と推定されます。運営母体であるオーストラリア国立大学は、この天文台の復興に強い意欲を示しており、一日も早い復旧が望まれるところです。
2003年1月21日 国立天文台・広報普及室